[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

かつて恋愛至上主義だった女が、「恋と男」以外の燃料でキレイになるには……

2014/05/25 21:00
abikomarie20140524.jpg
(C)安彦麻理絵

 女優の坂井真紀、といえばあの、TBCのCMである。「絶対キレイになってやる!!」という、あの名ゼリフ。お若い方々からしてみれば、ハッキリ言って「何のこっちゃ?」かもしれないが、その昔……調べてみたら1992年、今から17年も前にこんなCMがあったのである。一体どんな内容のCMだったかというと。「もう、今にもくじけそう……!!」と言わんばかりの、泣きそうな顔をした若い女(坂井真紀)が、ひとり、洗面所の鏡を見つめている。BGMは竹内まりやの「元気を出して」……絶妙の選曲である。そんな竹内まりやの、餅のようにネッチリとよく伸びる歌声の中、意を決したような強い眼差しで坂井真紀が一言つぶやく……そのキメゼリフが「絶対キレイになってやる!!」なのである。この一言で「ああ、この子は失恋したんだな」という事が痛い程に伝わってくる。

 そして、そのセリフの後にバシャバシャバシャっと顔を洗ってCMは終わるのだが……

 ……当時、このCMは結構話題になってたと私は記憶している。そのくらい、世の女達のハートを鷲掴みにした、素晴らしい出来映えのCMだったと思う。ご多分に漏れず、普段は口うるさい私も、このCMにはキュンときたもんだった。鏡の前で、坂井真紀気分でこのセリフを口にした20代のあの頃……失恋しても、そんな自分に酔える余裕がまだまだあった年頃だ。人生で一番大事な事は「恋愛」であった。それ以外の事はハナクソ同然。とにかくもう「恋をしてないと生きてる気がしない!!」というほどの恋愛至上主義っぷり。
だから当然、キレイになりたい理由は「男にモテたいから!! チヤホヤされたいから!!」なわけである。生きるエネルギーの源が「恋と男」。朝起きてから夜寝るまで、いや寝てる時ですら頭の中は「恋と男」。「恋と男」だけで、白飯何杯でもいけるくらいに、とにかく馬車馬のごとく、人生が「恋と男」中心なのであった……まぁ、若い頃は誰しもこんなふうだったろうとは思うが。

 さて。そんなふうに「恋と男」に狂ってた発情期を経て、時は流れ……結婚して子どもも生まれて四十(しじゅう)過ぎたら、女は一体どうなるか。というか、私は一体どうなったのか。頭の中にパンパンに詰まってた「恋と男」が消え失せて、代わりに入り込んできたのが「子どもと亭主」。いや、「恋と男」が合体したら「子どもと亭主」に姿を変えた、と言った方が正しいのか……。まぁそれはどうでもいいのだが、とにかくそんなふうに脳内環境が激変すると。今まで頭の中で、ギンギンにいきり立っていたあの、「男にモテたいから、絶対キレイになってやる!!」という欲と情熱。あれが気が付いたらなんかこう……すかしっ屁の残り香がいつの間にか失せていたように、私の中からスゥ~~っと消えていたのである。ああ、諸行無常とはまさにこの事。

 しかしきっと世の中には、「愛する旦那サマのためにも、いつまでもキレイでいなくっちゃ♪」と、己のモチベーションに常に燃料を投下して、鎮火させないように努めている女もいることだろう。「たいしたもんだよ」と、私はそんな女を腹の底から尊敬する。


 「娘以上ババア未満」……来月45歳になる私はそんなふうに、なんとなく中途半端なとこにきている。もう若くない事は、自分もまわりも激しく納得済みなのだが、しかし。ちょっとへりくだった態度で「いやぁ、もうババアですから」なんて言おうものなら、50代以上の女達から「何言ってんのよ、どこがババアよ!! ナメてんじゃないわよ!!」みたいな攻撃をくらう。(ああ、私も還暦すぎたら、40代の女にそんな態度をとるようになるのだろうか)まったく40代ってやつは、なんともよくわからない年頃である。枯れつつあるのだが、しかしやっぱり「キレイでいるにこしたことはないよなぁ」「見てくれが残念になるのはヤだよなぁ」と、キレイへの執着は捨てきれない。が、恋だの男という理由もなしで、どうやってモチベーションをアゲたらいいのかさっぱりわからない。不倫とかする気力もないくせに、しかしプラトニックラブなんて、なんか食いたりねぇんだよなぁとか思ってる自分もいたりして、どうしようもなく煩悩まみれ。

 そんなある日の事だった。友達の女が、男がらみでどうやら何か色々あったようで、その時、彼女の口から勢いよく飛び出したセリフが「アレ」だった。「……絶対キレイになってやる!!!!」、いつの時代でも、女が思わず吐き出してしまうこのセリフ、時代は変われどこのセリフは、ある意味、不変。「いやぁ、久々聞いたわこのセリフ」と、なかば感動的な気持ちになってた私だったが、そこへ「待った」をかけた女がいた……D子・38歳。結婚2回、子どもは3人。さとう珠緒似。そんなD子が、こう言い放った。「男のためにキレイになるのは間違ってる」……D子、ネイルサロンの店員から、子持ちの38歳には見えない容姿のおかげで「バケモノ」と言われた事もあるのだが、そんな女がいきなりこのセリフ。不変を覆すような意見に、ハッキリ言って「は?」である。

『だから女はめんどくさい』