「男はバカ」と悟った初体験、不倫同棲、父との確執――官能小説家が明かす「セックスを書く私」
“セックス”をテーマの1つに小説を執筆している女性作家たち。彼女たちは男や恋愛、セックスに対して、人よりも強い思い入れ、時に疑問やわだかまりを抱えていることも。小説にして吐き出さずにはいられなかった、女性作家の思いを、過去の恋愛や作品の話とともに聞く。
【第1回】
うかみ綾乃/『贖罪の聖女』(イースト・プレス)
自らのせいによる事故で、植物人間になってしまった妹の看病をしている紗矢。妹の延命措置のため、勤め先の社長・高本の家に住み込み、高本の異母弟・零士の私娼となる。零士は病弱で、5歳の時から家を出ることなく、高本と2人暮らしをしてきたという。そんな謎に包まれた兄と弟の秘密を、紗矢は暴いてゆくが——。
――『贖罪の聖女』では、まるで母親のような包容力で零士の性欲を受け入れる紗矢が印象的でした。うかみさんの作品には、無茶苦茶な男の全てを受け入れる女性がよく登場しますよね。
うかみ綾乃(以下、うかみ) 人と人が愛し合うことは、すなわち相手を受け入れ合うことと言われますが、実際は、人それぞれに許せないことやプライドがあって、相手を受け入れることはなかなか難しい。でも、もがきながら、それらを全て取り去って、人が相手を受け入れるところまでを描きたいなとは思っています。私自身には包容力はありませんし、だから結婚もしていないんですが(笑)。
――うかみさんが、もともと包容力のかたまりのような女性だから、そういう女性を描けるのかと思っていました。
うかみ 母性が最初からある人なんていませんよ。紗矢の場合も、植物人間になっている妹の存在によって、どこか欠落した部分を零士で埋めているんです。零士に母性を注ぐことで、妹への償いをし、快楽を得ようとしているところがある。私には子どもはいませんが、母性って、どこか自分の欠落した部分を埋めようとする行為じゃないかな、と思います。私が相手を全て受け入れるという作品を書きたいのは、相手うんぬんではなく、結局は自分自身を受け入れたいということなのかもしれません。
――うかみさんご自身も、男性に尽くしてしまったりすることはありましたか?
うかみ 尽くしている最中は気付かないんですけど、ふと、後で思い返したら「お金取られてたな」ということは(笑)。ある時付き合っていた彼は、既婚者だったんですけど、私には「離婚するんだ」と言っていて、気がついたら一緒に住むことになったんですよ。私は、てっきりすぐに離婚するものだとばかり思っていたら、7年間ずっと離婚が成立しませんでしたね。
――7年間! その間、どんな心境だったんでしょうか?
うかみ やっぱり少し病みましたよ(笑)。相手の奥さんから文句を言われるし、自分の親も悲しませているし。でも、彼は当時の仕事に関わりがある男性で、さらに一緒に住んでいたこともあり、当時の生活を全て捨てる勇気もなくて。そういう自分の弱さに嫌気が差していました。正直言って、その7年間で彼のことが好きだったのは、最初の3カ月くらいですよ。その後はどんどん相手を軽蔑していって、最後は同じ家に住んでいるのに顔を見ない生活になっていましたね。