『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【4月】

見世物小屋一座の擬似家族が漂う、“ここではないどこか”の誘惑と余韻――『五色の舟』

2014/04/20 16:00

太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年3月には1085点ものマンガが刊行されています。1日あたり平均35冊、1時間あたり平均約1.46冊が発売されている計算です。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。

【単行本】近藤ようこ版『五色の舟』

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『五色の舟』(KADOKAWA)


 3月は単行本が豊作でありました。中でも圧巻だったのが近藤ようこ先生の『五色の舟』(KADOKAWA)です。原作は当代一の幻想作家、津原泰水。その怪しくも魅惑的な世界を、近藤先生がいかにコミカライズするのかと楽しみにしていたら、これがまったく完璧でありました。戦時下の日本で見世物小屋を構えて生き抜く、体に障がいを抱えた5人の擬似家族。岩国に未来を語る半牛半人「くだん」が生まれたと聞き、一座に加えるべく5人は旅立ちます。異形のキャラクターたちの造形はとても魅力的ですし、彼ら・彼女らが住む色鮮やかなボロをまとった舟が水面を滑るイメージも、ただただ美しい。「ここではないどこか」への甘やかな誘惑と浮遊感、ほろ苦さ漂う余韻までも、近藤先生は完璧に描ききりました。そしてなにしろ原作には登場しない産業奨励館――今は「原爆ドーム」と呼ばれている建物です――の存在感たるや。間違いなく今年を代表する作品となるでしょう。

 ネットで大変な人気を博す、まずりん先生の『独身OLのすべて』(講談社)が、ついに単行本化されました。隔週木曜日のモーニング公式サイトのWebコミック「モアイ」の更新をわたしはとても楽しみにしているのですが、かわいらしいキャラクターデザイン、そして卓越した笑いのセンスと鋭い毒はもちろんのこと、感心してやまないのが、ある種の「女子」に対して安易にレッテルを貼ることなく、むやみに敵視して排除することもなく、同じ社会の構成員として内部から批判し、適切に言語化して、笑いにまで昇華する表現の強度と作家的態度です。そのバランス感覚は、主人公3人がなんだかんだで会社員であり続けることに象徴されるでしょう。ああ、期せずしてこちらの主人公たちも「異形」の者ですね。付録のシールがとてもかわいいので、ぜひとも単行本をお買い求めください。

 新人、谷和野先生の初めてのコミックスとなる短篇集『いちばんいいスカート』(小学館)も要チェックです。ちょっと不思議で優しい世界観は、大島弓子先生の血統を感じさせつつも圧倒的にオリジナル。「フラワーズ」(同)4月号掲載の『魔法自家発電』も、とても良かった!


【4月の注目】『たそがれたかこ』2カ月連続リリース

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『たそがれたかこ』1巻(講談社)

 そして今月も、おもしろいマンガが目白押しです。4月7日発売の井上佐藤先生『10DANCE』2巻(竹書房)は、社交ダンスの濃厚な世界を描いたBL作品。主人公2人のコントラストが絶妙で、BLファンでなくとも、とても楽しく読めます。翌8日には町麻衣先生『アヤメくんののんびり肉食日誌』2巻(祥伝社)が発売。もはや爬虫類よりも理解しがたいアヤメくんの生態から目が離せません。

 今月一番の注目作は、14日発売の入江喜和先生の新作『たそがれたかこ』1巻(講談社)です。「BE・LOVE」(同)にて好評連載中の本作は、母親と2人で東京の下町に暮らす45歳のバツイチ女性、たかこさんの何気ない日常を描いた一見地味(失礼)なマンガですが、たかこさんが若いミュージシャンにときめいたり、おいしい小料理屋を見つけたり、思い切って髪の毛の色を明るく変えたり……その日々はささやかだけれど、温かな喜びに満ちています。そしてその全ては他者からもたらされたものではなく、自ら変わろうとして得た結果だったということが大事なんですね。5月13日には立て続けに2巻も発売されるようなので、これを機にぜひお読みください。

 ほか、絶好調のさいとうちほ先生『とりかえ・ばや』4巻(小学館)は10日発売。『7SEEDS』とは一転、軽く読めて笑える田村由美先生の『イロメン~十人十色~』1巻(集英社)と、わたしが大好きな渡辺カナ先生の新作『ステラとミルフイユ』1巻(同)が25日に発売されます。同日には一部のマンガマニアから熱い注目を集める「ガロ」系の末裔、panpanya先生の新作『蟹に誘われて』(白泉社)もリリース。今月も大忙しであります。

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。


最終更新:2014/04/20 16:00
『五色の舟 (ビームコミックス)』
GWはマンガがあればいーやー