【連載】彼女が婚外恋愛に走った理由<番外編>

“干支が同じ”上司とセックスした新卒男子、「恋愛でも不倫でもない」という地獄

2014/03/22 16:00

 満さんいわく「中肉中背、とりたてて美人というわけではないけれど……」というその女性は、薄いフレームの眼鏡をかけ、スーツを着慣れているという雰囲気のいかにも仕事人間といった風貌。しかし満さんは、彼女の左手の薬指にシルバーのリングが光っているのを見逃さなかった。「こんなに真面目そうな人が、どんな顔して男と接しているんだろう」と、そのリングからあらゆる妄想を広げてしまったそうだ。

「単純にカッコ良かったんです。そのくせ、可愛くて……。面接に不慣れだったのか、節々でつっかえるんです。その度に僕は、緊張がほぐれました。こういう関係になってから聞いたら、僕との面接は4度目で、まだ慣れてなかったんだって教えてくれました。僕の中で今の会社が第一志望だったのは、彼女といたかったらからです。ヨコシマな理由ですけど」

 そう、満さんは照れ笑いを浮かべた。試験の結果は、採用。晴れて第一志望の会社に入社した満さんは、新入社員歓迎会の時、面接官であった彼女と同じ干支であることを知った。

「びっくりしました。当時の僕は、同年代の女性しか経験がありませんでしたから。まさか一回り年上の女性が、こんなに可愛いと思えるなんて」

 彼女は、100人弱の新卒面接を経験したのに、満さんのことをちゃんと覚えていてくれた。そして「何人もの人たちと会って、選ばれたから、あなたはここにいるの」というその一言に、満さんは「やられました」という。


 新入生歓迎会の後、2人は急速に距離を縮める。残業の後、たまたま2人で会社の最寄り駅まで歩くことになった際、満さんは意を決して彼女を誘った。

「ターミナル駅の居酒屋で4回飲み、その後、僕の最寄り駅の飲み屋に誘った時、打ち明けました。『実は、ずっとあなたの背中を追いかけていました』と」
 
 満さんと彼女が体の関係を持ったのは、たった一度だけ。ずっと背中を追っていた一回り年が上の女性を腕の中に閉じ込めた時、満さんはえも言われぬ高揚感に包まれたという。眼鏡を外した時の上司は、とても可愛らしく、照れくさそうに布団の中に体を埋め、満さんは彼女の体を手探りしながらセックスをした。「ああ、こういう充足感を得た時に、男は“結婚”を口にするのかもしれないな」と思ったそうだ。

『不倫の恋で苦しむ男たち(新潮文庫)』