[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」3月7日号

共感と非難が交わる心地よさを共有し合う、毒舌タレントと「婦人公論」読者

2014/03/04 19:00

 さて、「婦人公論」読者が断りたくても断れないものとは一体なんでしょうか。誌面のお悩みシチュエーションを見てみると、「好きでもない韓流アイドルのライブに誘われる」「夫の上司のBBQ大会に参加したくない」「ご近所ババアの恒例ランチ会が苦痛」「姑からの手料理定期便を拒否したい」などなど。「婦人公論」読者たちは日々こうした“ありがた迷惑”と戦っているのですね。「迷惑」に「ありがたい」がくっついてるから無下にもできず、ウソをつくにも良心が痛み、我慢するほどストレスが溜まる。本当に欲しいのは、「相手の『認められたい欲』を尊重すること、そして感謝の気持ちを忘れないこと」(佐々木)という上滑りのアドバイスではなく、「はっきりと『行きたくない』と断ればいいと思います」(吉永)というジャッジ。“悪いのは相手。あなたは悪くない。嫌なら断っていい”というジャッジです。ですから佐々木氏の言う上手な断り方ポイント「相手の認められたい欲を尊重する」とは、どちらかといえば断る本人の方に当てはまる言葉。自分が間違っていないと認められたいのではないでしょうか。

 毒舌タレントたちに過激なことを語らせ「そうよ、その通り!」と共感する一方、「そこまで言うなんて、ひどいわ~」と非難もする。共感と非難が交わるところこそ女の一番居心地のいい場所であり、その安全地帯から抜け出したくないから物事をハッキリさせずにグレーでいたいのかもしれません。

■本当はいい人のアリバイたる「素の私」

 以前、タレント・西川史子の母が驚きの子育て法を「婦人公論」で発表し、話題になっていました。世の中はカネとコネ。そう教え込まれてきた娘、西川史子は今や芸能界のご意見番としてのポジションを確立しつつあります。そんな西川が、芸能事務所・タイタン社長の太田光代と対談を行っているのが「別宅を持つ夫なんていらない」。

 バラエティ番組では強気な発言を連発させる西川ですが、ここで見せる顔はそれとは真逆。懸命に妻としての役割を果たそうとしていたのに、夫は潔癖症(「ゴマが一粒おちているのもイヤだった」)で、夢見がち(「居酒屋をやるとか、ほかにもプロゴルファーのシニアを目指す、投資がらみで絶対に儲かるパソコン教室を開くというのもありました」)、生活費も入れないセックスレスで内緒の別宅持ちだったというのですから、みのもんたの“おもいッきり生電話”なら確実に「お嬢さんね、今すぐ別れなさい!」と言われるレベルです。


 さらに弱気全開の西川先生は最後にこうつぶやきます。「私、学校も職業も、全部親の勧めに従ってきて、初めて自分で選択したのが結婚とタレント業だったのです。初めて自分で選んだもので失敗したから、もう自分では選ばないほうがいいのかもしれない」。

 長く「母親の望む娘」になろうとし、テレビでは求められるキャラになろうとし、家では愛される妻になろうとした、西川。そんな西川先生が結婚した理由が「彼なら、素の私を好きになってくれるだろうと思った」というのも、皮肉な話ですね……。もしかしたら「素の私」なんてものはどこにもなくて、「世間や家族に求められるままに演じている私」が本当の自分ではない、ということを証明したいだけなのかもしれません。

 西川は精神的に追い詰められて、夜中にただひたすら大量の唐揚げや串揚げを揚げていたそうです。確かにひどい夫だったのかもしれませんが、「いい妻」を思い込みすぎて自らを八方塞がりに追い込んだと言えなくもないような。それはご近所に、友達に、いい顔しすぎて断るタイミングを逸している「婦人公論」読者にも通じるところがあるのではないでしょうか。言いたいことも言えない「婦人公論」読者が毒舌タレントを心の拠り所にし、そんな毒舌タレントはメディアに見せない顔で心情を吐露して「婦人公論」におもねる。両者の利害関係がピタリと一致した「婦人公論」劇場は永遠に続くのだろうと感じさせられた号でした。
(西澤千央)

最終更新:2014/03/04 19:00
婦人公論 2014年 3/7号 [雑誌]
40過ぎて、まだ他人にいい顔していたいと思うと病むよ