森三中・大島美幸の妊活休業、気負いのなさ・冷静さこそ支持したい
妊娠出産というのは、多くの働く女性にとっては仕事を休まざるを得なかったり、出世ルートから外れてしまったりとマイナスになってしまうことも多いのだが(働く母親だけが別のルートを走らされることを“マミートラック”と呼ぶ)、大島ほどの人気芸人であれば、この経験をマイナスにせずにプラスにすることもできるだろう。
妊活を発表した大島と鈴木は、早速病院でさまざまなチェックを受けたのだという。不妊に悩む女性の大きな悩みのひとつは「男性側が検査を受けてくれない」ことなので、鈴木の「夫も一緒に妊活をする」という姿勢は、大島にとっては心強いことだと思う。
とはいえ、多くの女性たちは、妊娠についての知識があやふやなことが多いと感じる。この連載でも以前、妊娠の仕組みについて簡単に書いたが、「知らなかった」という女性も多かった。最近刊行された産婦人科医の宋美玄の『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』(講談社)が非常に面白かったので、そこから妊娠にまつわる話を紹介していきたい(この本、妊娠以外の話もとても勉強になるので、必読である)。
まず、日本では抵抗を持って受け止められがちなピル。ピルは避妊のためだけではなく、生理痛の軽減にも役立つのだが(それも知られていないことが多い)、「ピルを4~5年以上飲むと、妊娠力(妊孕性)がアップする」のだとか。これは今より妊娠しやすくなるという意味ではなく、なにも飲まずに4~5年経過した場合に比べて、という意味だそうだが、ピルを飲むことで排卵が抑制されて、卵巣を休ませることができるからだそうだ。ほかに、妊娠力をダウンさせない方法は、睡眠をしっかりとる、標準体重を保つ(やせすぎてもいけない)、たばこを吸わないということくらいで、それ以外に女性誌に載っている「ヨガで妊娠力アップ」などは眉唾なのだという。
さらに、最近女性誌でも人気な「子宮力を高める」「冷えとり」というテーマ。これもまた、「不妊」と「冷え」は無関係なのだという。子宮や卵巣は骨盤の中にあり、ここはかなり太い血管が通っている場所なので、一番体温が安定していて、手足やおなかが冷えたくらいで骨盤内の温度が下がることはなく、命の危険にさらされるくらい冷えなければ子宮や卵巣は冷えないのだという。宋は「冷えとり」自体は否定しないというが、妊娠との関連はないということだ。ネットや女性誌や友達の口コミですすめられた方法をとるということはありがちではあるが、実は意味のないことの方が多いのかもしれない。
うむかうまないか、妊活するか、不妊治療に取り組むか、女性はさまざまな選択肢を迫られがちだが、まず正しい知識を得ることが大事だろう。私自身もネット情報や女性誌を読むことは好きなのだが、残念ながら女性の体や妊娠などの情報に関してはあまりにもいい加減な情報が多い(私は妊娠を望んだことはないのだが、子宮筋腫などの婦人科疾患をもっているので、それをよく感じる)。産婦人科医による本を読む、信頼できる産婦人科医にかかる、という方法をとることが大事だと思う。
そしてもっと大事なことは、どんなにがんばっても妊娠できないと、事前に覚悟しておくことだと思う。
世の中には、まるで努力しなくても(していないようにみえても)、就職も結婚も出産もみんなうまくいっている(ようにみえる)女性もいるが、逆のこともある。希望を持ち、努力することも大事だが、それ以上に「ダメな時は仕方ない」というあきらめの気持ちも持ち続け、「ダメな時にはこうしよう」という代案を持つことが、大事なのだ。
大島の「妊活」も「必ずうむぞ」というがむしゃらさはなく、「とりあえず1年くらいは専念してみる」という冷静さがあるように、本人のコメントや記者会見からは感じた。思い通りにならないからこそ(私自身も思い通りにならないことの方が多い)、人生は結構面白いなと思うくらいの方が生きやすいのである。
深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。