“自然志向”という言葉に隠蔽された、食品系ブラック企業の「奴隷制度」と「男尊女卑」
「後から聞いたのですが、そんなやり方をしているので、定着率がすごく悪いんです。1日で辞める人も珍しくないそうですよ」(同)
そんな状況を、経営の上層部は「仕事は教わるものではない。現場で学ぶもの」とうそぶいていたらしい。一部のブラック企業に見られる傾向として、「最低限の訓練や教育を行わない」ということが挙げられる。「新人は先輩の背中を見て育つものだ」などと、わけのわからない抽象的な文言で誤魔化すのである。
そして、ブラック企業の経営者たちというのは、従業員の善意というものを何ら躊躇することなく踏みにじる。「何とか仕事を覚えて慣れてくると、私たちを『雑用』にこき使うようになった」(同)といい、営業職に残業手当がつかないのをいいことに、何かと雑務を強制するようになったという。
「冷蔵品に使う業務用の蓄冷材がたくさんあるんですが、これがとても汚れていたので、ある営業職の従業員が、自主的に倉庫の片隅で洗っていたんです。するとそれ以来、経営者の連中から『蓄冷材を洗うのは営業の仕事』みたいに言われるようになって……。パートの人たちは、『そこまでしなくていいのよ』と言ってくれるんですが、経営陣は『今日はちゃんと洗ったのか』なんてにらんでくる。こんなことは、いくらでもありましたね」(同)
ほかにも営業担当者は、店舗の床清掃や事務所の備品の整理などを手伝わされた。理由はただ1つ、残業代なしでこき使えるからである。
「休日出勤も多かったですよ。ほとんど強制です。『来週の日曜日、出勤しろ』というように。土砂降りの雨の中で、トラックから農産物を倉庫までずぶ濡れになりながら運んだこともあり、大変でした。休日出勤にはつくと決められていた代休と手当も、守られることはなかった。まず、休日手当なんて、もらったことはありません。代休も、自由に取れるわけではないんです。いきなり上から、『次の水曜日に休め』なんて命令される。こちらの都合なんて、まったく無視。それに、忙しさから代休が取れず、うやむやになることも多かったですね」(同)
■裁縫仕事=女の仕事という非常識
このように、従業員の処遇についてとてもいい加減だったのだが、ある日、とんでもない事件が起きた。
「給与明細を見たら、基本給が3,000円足りないんです。その時ばかりは、すぐに『おかしい』と怒りましたね。しかし、私たちが騒いでいるのがわかると、役員室に営業全員が呼ばれ、『うちも今は厳しいから』とか『目標のために君たちも努力してくれ』なんて言い訳や綺麗事を並べ立てられて、結局またはぐらかされました」(同)