[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」2月7日号

ご機嫌特集とDV企画に見る、「婦人公論」世代の引き裂かれた人生観

2014/02/06 16:00

 カントリーダンスにハマって「年に一度は仲間とアメリカ旅行。ラスベガスからニューオリンズまで足を延ばして、本場の空気をたっぷり吸ってくるという」なんて贅沢はとてもじゃないができませんという方には、こんなイライラ解消プログラムもございます。「思い込みやストレスがわかる!『ご機嫌ノート』の書き方」は、不機嫌になる原因を書き出し、どうすれば不機嫌がご機嫌に変わるのか、その対処法を考えるというもの。

 例えば「夫が家を汚す」というイライラは、「私は大切にされていない/愛されていない」という「思い込み」や「キレイであるべき」という「観念」からきており、そのルール自体を緩めてみれば解消される問題と位置づける。さらに「普段夫が家族のために頑張って働いて、疲れて帰ってきて家でまで気を使いたくないのだ」と相手の気持ちを理解した上で「片付けて」とお願いするという「実行計画」を作成し、「理想(例:夫にもちゃんと片付けてほしい)」と「新しい信念(例:もともと私は夫に愛されている)」で締めくくる。ふ~~、めんどくさ~~。どうして女性誌はすぐ「己と向き合え」的な指導をするのでしょうねぇ。自分の不機嫌をつらつら書き連ねたこんなノートを万が一ほかの誰かに見られたらと思うと、怖くてオチオチ死ねませんよ。イライラを一つひとつ書き出しては「こんなルールに縛られている私が悪い!」と謎のMプレイに興ずるより、ベガスでパーッと発散したい。まさにイライラの沙汰も金次第。もしアナタの家に「ご機嫌ノート」と書かれたノートがあっても、決して中を覗いてはいけませんよ。

■潜在的DV被害者の多さに戦慄……

 今号は「緊急特集」と題して「身近にある危険 DVから身を守る」というページもあります。現在、女性の10人に1人が配偶者からの暴力に苦しんでいるとのこと。配偶者のみならず、恋人からの暴力、いわゆる「デートDV」も社会問題化しているそうです。

 専門家座談会によれば「自分が被害者だと気づかない女性は非常に多い」のだそう。というのも、最近のDVの主流は身体的な暴力よりも、たとえば「『お前なんか生きてる価値がない』と罵倒されたり、あるいは虫の居所が悪いときに無視されたり」「子どもが2人いるのに毎日500円玉1枚しか渡さず『それでやりくりできないお前が無能だ』と言う」など精神的、経済的な暴力に移っており、声をあげようにも「体に傷が残らないから『大したことじゃない』と周りに言われて、黙ってしまう」のだとか。著しく自尊心を傷つけられた結果、相手に精神をコントロールされてしまい、暴力から命からがら逃げてきたのに「『朝ごはん食べたかしら。会社行ってるかしら』と夫の心配をする人がいるんです」。読者手記でも、いかに暴力的マインドコントロールが肉体と精神の両方をジワジワと痛めつけていくかが語られています。


 とにかく夫が嫌いな「婦人公論」。アンケート、ルポ、読者手記でも「夫=百害あって一利なし」のポリシーを貫きます。その「婦人公論」でDVに向き合うことの意味をあらためてかみしめました。先ほども申しましたように、古い価値観と新しい考え方の間でさまよっているのが現在の「婦人公論」世代。だからこそ、これくらいは普通なの? それともおかしいことなの? と迷っている方も多いのだと思います。伝統芸能として処理されがちな“夫ギライ”に、もしかしたら夫ギライ以上の意味があるのかも……。

 誰かの「それDVだよ」を待っているのかもしれないと考えると、世の中にはどれほどの潜在的DV被害者がいるのでしょうか。もちろん女性から男性へのDVもあり(特集にも登場)、夫婦関係、男女関係のパワーバランス、一筋縄ではいきません。浅香のミッチーのように「二号でいるのはイヤでござんす」とパーンと啖呵を切るには子どもを抱えても自活できるだけの生活力、とにかくゼニ、この世はおゼゼなしには何もできない。それとも「自分はご機嫌なんだ」と暗示をかけ続けるのか。どちらにしても人生これ茨の道……ラクな方などございません。
(西澤千央)

最終更新:2014/02/06 16:00
婦人公論 2014年 2/7号 [雑誌]
「デスノート」に夫の名を書けば、美輪さまが顔面だけで殺してくれるって!