セレブライター登場! 華やかな「VERY」舞台裏が、読者の安定剤となる理由
このコラムを読み、「VERYの舞台裏」をまた違う角度から捉えられた読者もいるのではないでしょうか。例えば、「東京の女性誌編集部って、こんなに華やかなのね。私には遠い世界だわ」と気後れしてしまっていた地方在住の働くママが、小島さんのコラムを読み、「ああ、こういうきらびやかな世界ですら、コスプレが入ってるのよね」と見方を変える可能性も。さらには、幸せな主婦像を掲げる「VERY」のファッションページこそ、まるごと「コスプレ」であり、だったら穿った目で見るより楽しむべきと、思えるかもしれません。
一方で、「VERY」的な暮らしをするママが、その裏で綱渡りな日々を送っている姿を描いた、桐野夏生さんの『ハピネス』という連載小説のように、一見不穏に感じられるページも、「VERY」にはあります。しかし、これもまた、「『あこがれ』の世界こそが虚構であり、リアルは自分たちの中にある」と気づかせてくれるという意味で、毒のように見えて、実は読者の精神安定剤的要素になっているとも考えられます。
■「男女の時間を作る」という回答の無意味さ
「VERY」は実は、「毒のような安定剤」であるという一面を指摘しましたが、「夫婦の大問題!産後クライシスへの処方箋」という企画には、逆に「安定剤のような毒」を感じました。 こちらのページは、読者の産後クライシス談を紹介し、その解決法を提案しているんですが、結局、妻の側の努力ばかりが求められるものばかりでした。
紹介されているのは、例えば「つわりも酷く流産の可能性もあるので、仕事を早め辞めることにしたら、夫から『安定期にまた働けるんじゃない』と言われた。産後も夫は、家事に積極的なほかの家庭の旦那さんを『あいつも大変だなー』と他人事のようにしか受け止めていない」「夫はまったく家事・育児をしないのに、『俺みたいに、こんなに子育てやってる人いないよ』『うちは仲良し家族!』と信じて疑わない」「授乳や夜泣き、寝不足でつらかった時、『つらい』と夫に助けを求めたら、『ほかのママもみんな、頑張ってるだろ』とよその奥さんを引き合いに出された」など、あまりにもつらい体験談ばかり。
そんな「産後クライシス」問題の解決策を考えてくれているのが、『産後クライシス』(ポプラ社)を執筆した、NHK情報番組『あさイチ』のディレクターと記者の方なんですが、それがあまりにも夢見がちなんです。「母になっても女でいられる時間は大事」だから、「子ども抜きで、夫婦二人でデートすることもすごく良い対策」。また、「どんどん夫婦の時間を作って、男と女という関係を維持することも必要」など、「それができたら悩んでいないよ」という解決策しかありませんでした。
そもそも、こういう不満は、「よその家庭は夫婦仲がいいのに……」という、他人との比較が発端に生まれる場合も。むやみやたらに、「男と女の関係を取り戻そう」とフランス流のアドバイスされても、それができなかった時、さらに「なぜうちはできないんだろう」と悩みが大きくなってしまう気がします。理想の家庭なんて、そうそうないということを知った方が、「なぜうちだけ……」という悩みの種にならないのでは……と思ったのですが、根深い問題だけに、正解を見出すのは難しいのでしょう。
ただ、「産後クライシス」という言葉が生まれ、その意味や問題が生まれる背景を考えるきっかけとしては、有意義なページだなと思いました。
(芦沢芳子)