深澤真紀の「うまないうーまん」第7回

「入籍」は間違い、正しい「戸籍と婚姻」と「夫婦別姓」についても知ろう!

2013/12/05 21:00

 というわけで、「婚姻届提出」のみの場合は、単純に「結婚」と言えばいいだけだし、どうしても披露宴を行っていないことを言いたいなら、「婚姻届提出」と表現すればいい。わざわざ間違った表現を使うことで、「自分の戸籍に入れる」「相手の戸籍に入る」という意識になってしまい、無用なプレッシャーを夫婦の両方に与えるだけである。

 また、前回にも触れたが「婚姻」と「姓」についての誤解も多い。夫婦で新しい戸籍を作る現在の結婚では、「姓」もどちらのものを選んでもかまわない。しかし男性が姓を変えると「婿養子」と誤解されることもあり、日本では98%もの女性が改姓しているといわれる。「夫婦別姓」も、戦後間もない1950年代から議論されているが、これも前回の「婚外子差別」同様に、「家族の絆を守れない」という保守派の言い分により、なかなか法制化されそうにない。夫婦別姓の国は多いが、それらの国で家族の絆が壊れたということはないと思うのだが。

 ここで少し寄り道して、私自身の「結婚」史について語ってみたい。

 大学時代から交際している夫とは、就職してすぐに「家賃がもったいない」というありがちな理由で、一緒にマンションを借りることにした。ただお互いに結婚願望はなく、かといって「同棲」や「内縁」という響きもなんだか昭和っぽく、一方で「事実婚」も「けっきょく結婚という表現だし」と違和感があり、「彼氏と同居」という表現をしていた。

 不動産屋には「婚約者です」と言えば問題はない(たまに「婚約証明書」を求められることもある。ちなみにこれがあると2人が別れた時に、どちらかから婚約破棄の慰謝料を求められることもあるのだが)。この時私たちは、同じ住所に、それぞれを世帯主とする別々の住民票を作った。これは同じ住所にシェアしている友人同士が、それぞれに自分の住民票を作るのと同じ方法である。


 その後30代になり、マンションを買うことになった。2人とも働いているので「共有名義」でローンも組み、不動産の登記もすることにしたのだが、この時には「婚約証明書」並びに「同じ住民票」が必要になった。そこで区役所に、彼を世帯主にする住民票を作ってそこに私が同居をすると、「妻(未届)」と記載されることがわかった(逆のパターンなら、「夫(未届)」と記載される)。これにより、一部の保険金の受取人や、携帯電話の家族割、航空会社のマイルの共有なども可能になった。

 私はこれを「住民票婚」と呼んでいる。別姓のままでいたい、子供がいないなど、とりあえず様子を見たいのであれば、わりとおすすめの方法である。もし子供ができたとしても、夫側が認知をすれば実子と認められる(ただし婚外子となり、これが前回の問題につながる)。「戸籍婚」との大きな違いは、法定相続ができない(私たちはお互いに遺言書を作った)、配偶者控除が受けられないなどがあるので、自分たちの状況に合わせて選べばいいと思う。

 長くつきあってきた私たちが、婚姻届を提出したのは40代になってからだ(ちなみに婚姻届を出しただけで、結婚にまつわるイベントは何ひとつしていない)。その理由はお互いの家族との関係やマンションの名義や相続の問題、年齢的に大きな病気をする可能性もあり、お互いの死についても考えるようになってきたからである。

 そして、私自身が長く仕事をしてきて「深澤真紀」として認知されたことで、戸籍姓が変わっても、そのまま通称使用をしやすいと判断したからだ。会社員の夫が姓を変えるのは、小さな会社を経営している私以上に面倒が伴うし、私が変更することにした。

 さらに私が姓を変えたのには、かつてはほとんど認められなかった「パスポートの両姓併記」が2006年から、「(1)職場で通称を使っている(2)業務上の渡航である(3)通称使用が仕事に必要である」という条件で認められるようになったのも大きい(そのための書類の準備や手続きは少し面倒ではあるのだが)。これによりパスポートの姓名欄に「MAKI OTTO (FUKASAWA)」と、新姓と併記してカッコ内に旧姓が表記されるようになった。身分証明書の王様的存在であるパスポートに、旧姓と新姓が併記されるのはとても便利だ。ちなみに通称使用する場合は、旧姓のクレジットカードおよびその支払い用の銀行口座を1つは残しておくことも重要だ。


 「夫婦別姓」が実施されたらすぐに使いたいとは思っているが、とりあえずはこのようにいろいろな方法があるので試してみることをおすすめする。

 ただ私は「深澤真紀」という名前に大きなこだわりがあるわけではなく、仕事でも私生活でも「同じコードネーム」を使い続ける方が便利だと思うタイプだというだけだ(ネット上でハンドルネームを使うのすら面倒くさいので、「深澤真紀」を使うようにしているし)。だから「結婚で改姓するのが女の幸せ」という人を否定するつもりはない。いろいろな選択肢があったほうがいいと思うだけだ。

 さて「戸籍と婚姻」については、子供の問題も含めて重要なテーマがいくつもあるので、次回もこれについて書いていきたい。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。

最終更新:2019/05/17 20:10
『おっとあぶない』
あぶない、あぶない……