「入籍」は間違い、正しい「戸籍と婚姻」と「夫婦別姓」についても知ろう!
前回のコラムで、「結婚において、『入籍』という表現は基本的に間違いである」と書いたら、「本当?」という反応が多かった。「結婚」には多大な関心があっても、「戸籍と婚姻」について詳しくない人は多い。今回は改めてそれについて書いていこう。
前回も書いたように、「婚姻届を出す」=「入籍」ではない。戦後の「新民法」では、結婚する場合は、男性も女性もそれまでの親の戸籍から抜けて、「新しい戸籍」を作るからだ。ではなぜ「入籍」という言葉が使われているのだろうか。
これには、芸能界における地味婚ブームが影響している。バブル期までは、芸能人が結婚する時は大々的に披露宴を行い、テレビ中継が行われることも多かった。たとえば1987年に放送された郷ひろみと二谷友里恵の披露宴は47.6%という視聴率を叩き出し、歴代1位の記録になっている(結局離婚して、それぞれ再々婚、再婚をしているが)。
ところがバブルがはじけた1995年、永瀬正敏と小泉今日子が結婚した時に、結婚会見のみで披露宴を行わないことが話題となり、「地味婚」という言葉が生まれた(この2人も離婚してしまったので、「派手婚」だろうと「地味婚」だろうと、離婚する夫婦は離婚するわけである)。「地味婚」は1996年の新語・流行語大賞にもノミネートされ、いまでも使われる表現である。これ以降、芸能人が結婚しても披露宴を行わず、さらに結婚会見さえ開かず、ファクスのみ、あるいは最近ではブログのみで発表するケースも増えている。
ここで困ったのが芸能マスコミだ。
「永瀬正敏・小泉今日子 結婚」だと、「披露宴を行ったように読めてしまう」と思ったのだろう。「披露宴を行わない結婚をどう表現するか」という時に、旧民法の概念である「入籍」を持ち出してきたわけだ。最近では一般人が結婚する時にも、「入籍だけしたんだ」と普通に使うようになってしまった。
このように「入籍」は芸能マスコミや一般人にはごく普通に使われるようになったのだが、実は一般の新聞やニュースではほとんど使われない表現である。多くの新聞記者が使う「共同通信社 記者ハンドブック」には、「入籍」は「養子縁組では使用するが、結婚の場合はなるべく『婚姻届を出した』『結婚した』などとする」と書いてあるし、NHKの放送文化研究所のサイトにも、「Q 一部の番組で有名人・芸能人の結婚の話題を取り上げる際、『○○さんが入籍』などと伝えている場合がありますが、『入籍』は間違った使い方ではないでしょうか。」「A 一般的に、そのような場合の『入籍』という表現は正確ではありません。なるべく『婚姻届を出した(出しました)』などとしたほうがよいでしょう。」と書いてある。芸能人の結婚が発表されたら、一般の新聞やニュースと、芸能マスコミの表現を比べてみてほしい。