[官能小説レビュー]

「セックスは事なかれ主義」の女への良書『わたしには鞭の跡がよく似合う』

2013/11/04 19:00

 深雪の中に潜む“聖子”。彼女はたまたまマゾヒストとしての母の血を受け継いでしまった。本来の自分とはまったく別のところに潜む、自分でも制御がきかないほどに強い血を。

 深雪のように強いマゾヒストの気質を持つ人は稀かもしれないが、私たちにも少なからず性癖を持っている。「乱暴にされるのが好き」とか「ディープキスが嫌い」とか。実はセックスそのものが苦手という人も大勢いるだろう。

 しかし、セックスが原因で別れるという日本人は、ほとんどいないのではないだろうか。それぞれの性癖なんて「ちょっと違うけど、まあいいか」で済ませられるくらいの欲求と受け取られているのかもしれない。
 
 ただ、もし深雪のように、自分でも制御できないほどの強い性癖を持っていたとしたら? 異様にも映る深雪の性癖へのこだわりを知れば知るほど、今までのルーチン化したセックスへの懐疑心が生まれ、セックスへの好奇心がくすぐられた。今までは「まあいいか」で済ましていた自分の性癖だが、もしそれを男「面倒だ」とねじ伏せられてしまったら……私はそんな男、願い下げだとすら感じるようになった。

 女の魅力は一面だけではない。深雪のように、あらゆる側面を持っているはずだ。そのことがより顕著に現れるのが、セックスの時なのかもしれない。せっかく裸を見せ合うのだから、自分の願望まで見せたい――本書は女を欲張りにさせてくれる一冊である。
(いしいのりえ)

最終更新:2013/11/04 19:00
『わたしには鞭の跡がよく似合う』
「聖子」なんと業の深そうな名前