サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー三十路婚活女の反面教師本 カルチャー [官能小説レビュー] 「結婚すれば、出産すれば……」リセット願望に現実を突きつける『愛されすぎた女』 2012/09/17 19:00 官能小説レビュー 『愛されすぎた女』/徳間文庫 ■今回の官能小説 『愛されすぎた女』(大石圭、徳間文庫) オンナにとって一番の過渡期は、30歳だと思う。“若いオンナ”という値札をぶらさげているだけで、周囲が高値を付けてくれた20代は終わり、自分そのものを値踏みされる30代に突入する。女性誌などで使い古された“自分磨き”なんて言葉を鼻で笑い、若さゆえに恵まれた表層部分にあぐらをかいていると取り返しのつかないことになってしまう……中身がからっぽの30オンナなんて、誰も相手にしてくれなくなるのだから。たとえ、どんなに外見が美しくても。 将来に展望のない三十路独身女が最終的に狙うのは、“結婚”。彼女たちが求めるのは、自らの力で築けなかった空白部分を埋めてくれるような、地位も名声も持ち合わせ、なおかつルックスも合格点の、すべてを備えた王子様。 冷静に考えれば、そんな完璧な男性なんて、とうに自分に見合った女性を選んでいると見当がつく。けれど崖っぷちに立たされた三十路婚活女は、年甲斐もなく自分主導な夢を思い描いてしまう――。 『愛されすぎた女』(徳間文庫)の主人公・三浦加奈は、初めて人生の岐路に立っていた。田舎町から1人上京し、芸能プロダクションに所属していた順風満帆の20代……30歳を目前にした今は、古い木造アパートに暮らし、派遣社員として事務をこなしながら、なんとか日々を食いつないでいた。人一倍美しい容姿に恵まれていた加奈は、常に綺麗でいることが好きだった。頻繁にネイルサロンや美容院に通い、エステティックサロンで身体を磨き、派遣先で稼いだ金で足りない分はクレジットカードで賄い、ついには消費者金融からも借り入れをするようになる。借金は膨らみ、ついに30歳に突入した加奈。彼女は、年収1,200万以上の男性だけが登録している結婚相談所に入会し、人生の一発逆転を謀る。 相談所から紹介されたのは、年収一億を超える輸入中古車販売会社経営の岩崎。35歳、ルックスもスタイルも申し分ない。けれど彼は35にして4度の離婚歴があった。普通だったら疑心暗鬼に感じるものの、金に目がくらんだ加奈は交際を重ね、晴れてセレブ婚を勝ち取った。指には大粒のダイヤを光らせ、給料の5倍もの小遣いを渡され、惜しみなく身を着飾る加奈。主人となる岩崎は、優しくハンサムな金持ち——誰もがうらやむ夢のような結婚生活。けれど岩崎には、予想だにしない一面を持ち合わせていた。妻を愛しすぎたゆえに、異様なまでの執着を示してしまうのだ。 夫から妻への愛の表現行為が、普通のそれとはかけ離れていた……それがこの結婚の最大のオチ。岩崎の意に背くと、加奈には暴力的な“お仕置き”が待ち受けていたのだ。全裸のまま両手と両足を拘束され、丸めたショーツを口に押し込まれたまま、ホテルの部屋に1人置き去りにされる加奈。その様子は、部屋の清掃に来た若いハウスキーパーやルームサービスを運ぶホテルマンにから一瞥され、最大の屈辱を味わう。 岩崎との結婚は、まるで操り人形のようだ。彼の望みどおりに豪華な食事を用意し、美しくあり続けるためにエステやフィットネスクラブに通い、磨き上げた身体の上に、彼が好む服をまとう。そして夜は、彼の暴力的なセックスを身体で受け止めなければならない。 何も考えずに生きて来たろくでもない20代も、結婚さえすればすべてチャラになると信じ込んでいた加奈。年甲斐もなく結婚に夢を抱き、その後の人生すべてハッピーになるとナメた生き方していると、こんなイタいオチが付いてしまうのかもしれない。 将来に何の希望も持てない今の時代だからこそ「結婚さえすれば」と妄信する女性も多いはず。けれど結婚というものは、人生の通過点の1つに過ぎない。結婚とは、相手が一方的に幸せにしてくれるのではなく、互いが互いを幸せにし合う共同作業なのである。 さらに本作では、結婚とおなじく“オンナ一大イベント”である出産についても語られている。夫から逃げるように、不倫相手との子どもを妊娠した加奈。しかし、その事実はすぐに夫にバレてしまう。嫉妬に狂った夫に追い詰められ、加奈は死を覚悟するが、その瞬間胎動を感じ、再び生きることへの希望を見出す。 アラサー女性に限らず、すべての女性にとって、妊娠とはこれからの人生への希望。オンナを一瞬にして「ママ」という特別な存在にしてくれる。けれど、果たしてそれだけだろうか? 「子どもさえ産めば……」と考えるのは、結婚に夢を抱きすぎることと同じ。妊娠は、きっかけの1つにしか過ぎない。その後の人生を導くのは、夫でも子でもなく、自分自身なのだということを、忘れてはいけない。本作はそんな自戒を抱かせるのだ。 人生、そううまくいかない。この物語は、まだ夢から覚めきらない婚活女の反面教師となりそうだ。 最終更新:2012/09/17 19:00 Amazon 『愛されすぎた女』 「ロマンスの神様」なんていないのよね…… 関連記事 悲しみも怒りも自身で解放する、現代女性の“自立”を描く『自縄自縛の私』恋愛やセックスにおける男女の"平等"に迫った、「みんな半分ずつ」「ヤリたいだけの女」を高らかに宣言した、岩井志麻子の『チャイ・コイ』恋なのか業なのか、消極的な男を追いかける女を描いた「18歳24歳30歳」「子どものために」という枕詞を利用しまくる、『ママなのに』 次の記事 キャサリン妃のセックス写真が存在? >