出生率は変わらないのに、「セックスしない国・日本」を問題視する不思議
たしかに日本のセックスの回数は、世界でも最低というデータがある(コンドームメーカー・デュレックスによるセクシャルウェルビーインググローバル サーベイ)。しかし日本は年に50回弱のセックス回数で世界最低だが、年に140回弱のセックス回数で世界最高であるギリシャも、世界保健機関(WHO)の「World Health Statistics 2013」という統計によると女性1人が生涯に産む子どもの数は1.5人で、日本の1.4人とさして変わらないからだ。ギリシャでは経済危機のため出生率が下がっていることが社会問題になっているくらいだが、日本の倍以上の年に100回程度のセックスをするというイタリアやドイツも、出生率は日本と同様の1.4人。つまり、セックスの回数と出生率に相関性はないわけだ。
先進国で出生率が高いのはアメリカ(2.1人)やフランス(2.0人)やイギリス(1.9人)で、その理由は「女性が働いている」「子供を預けやすい」「教育費が安い」などがあると言われている。つまり先進国では「子供の養育や教育費の心配がない方が、子供を産みやすい」ということがいえるのだろう。
この傾向は日本国内でも同様で、「女性が働いていて、しかも女性管理職が多いほうが、出生率が高い」という傾向があるのだ。熊本や鳥取や宮崎は、女性が働いていて、管理職も多く、出生率も高いが、埼玉や千葉や神奈川は、女性があまり働いておらず、管理職も少なく、出生率も低いのだ。地方の方が高くて、首都圏の方が低いという傾向は興味深い(内閣府男女共同参画局より)
また、草食男子が話題になってから、国内でも若者の「セックス離れ」の記事は好んで取り上げられるようになった。日本性教育協会が発表した「青少年の性行動全国調査」では、1974年の調査開始以来一貫して上昇傾向にあった女子大学生・女子高校生の性交渉の経験率が、2011年には下落に転じたというニュースも話題になった。
性交の経験率は男子大学生が54%、女子が47%。前回の05年と比べると、男子は7ポイント、女子は14ポイント減り、女子の減り幅が大きかったという。しかしこの調査はこれまで、74年から93年にかけての性交経験率が男子大学生が23%から57%へ、女子が87年から93年にかけて26%から43%と大幅に増加したことで、「若者の性の乱れ」と大いに問題になったのである。減ったら減ったで「草食化」と騒ぐのだから、本当にばかばかしい。
たしかにセックスをしなければ子供は生まれない。しかし「日本人のセックスは特殊だ」と思い込んで悩んでしまうことは、子供を産むか産まないか悩む女性や男性にとっては、余計な心配ごとを増やすだけだと思う。セックスはとても個人的なものだ。子供を産むためだけにセックスをするわけでもない。他人のセックスが気になってしまうのは仕方ないことではあるけれど、お互いに「他人のセックスに干渉しない」くらいでいいと思うのだ。
深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。