ドラマレビュー第20回『クロコーチ』

『クロコーチ』が暴く、「権力の暗部」における“正解”の限界と“悪”の有効性

2013/10/16 14:30
kurokouchi.jpg
『クロコーチ』(TBS系)公式サイトより

 『うぬぼれ刑事』(TBS系)以降、テレビドラマには3年間出演していなかったTOKIO・長瀬智也だったが、今年は『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)、『クロコーチ』(TBS系)と連続ドラマ出演が続いている。今期のドラマ『クロコーチ』では悪徳警官を演じており、無精ひげを生やした強面の表情は、久々に暴力性の塊としての長瀬が堪能できそうだ。TBSの金曜ドラマで放送されている『クロコーチ』は、「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)で連載されている同名漫画(原作・リチャード・ウー、作画・コウノコウジ)をドラマ化したものだ。

 神奈川県警捜査二課の警部補、黒河内(くろこうち)圭太(長瀬智也)は、県警最悪の悪徳警官。犯罪をもみ消す代わりに賄賂と情報を握ることから、「県警の闇」と呼ばれていた。そんな黒河内と、彼以上に深い闇を抱えた警察組織の、悪と悪のぶつかり合いを本作は描いている。

 本作は一見、刑事ドラマのパターンをなぞっているように見えるが、黒河内の悪党ぶりを筆頭に、他ドラマとは違うものを作ろうという心意気が見え隠れする。物語冒頭、黒河内は、愛人を殺してしまった郷田議員(石丸謙二郎)の元を訪れ、殺人の隠ぺいを行う。郷田は、神奈川県知事の沢渡一成(渡部篤郎)が過去に起こした殺人事件に関わっており、その証拠を探るために郷田の弱みを握ろうとしていた。

 登場する愛人の死体は、情事の最中だったこともあり、シーツで女性器は隠れているものの、乳房を晒した裸体として登場する。しかも顔はボコボコに腫れて血まみれだ。この程度の残酷描写で本気度を測るのは甘いかとも思うが、それくらい、今のテレビで血やヌードを出すのは困難だということだ。残虐表現自体は映画ではありふれたものだが、第1話冒頭で裸体の女の死体をしっかり見せるということは、このドラマにおける最低レベルとして、この程度のエロと暴力は描くという合図とみていいだろう。その後、県警に赴任した清家真代(剛力彩芽)が、上司の命令で黒河内を監視するという名目で捜査に同行し、ドラマはバディモノとなるのだが、清家の設定には「また、これかよ」と少し落胆した。

 清家は警部補として赴任してきた東大法学部出身の女性キャリアで、過去10年分の事件の記憶を持っていて、抜群の推理力を持つ。中途半端なスカートの丈のダサい服装や、天然のお嬢さま育ちだが、推理力と記憶力は抜群という設定は『ケイゾク』(TBS系)の女刑事、柴田純(中谷美紀)を彷彿とさせる。折角、導入部が魅力的だっただけに、『ケイゾク』以降、量産された男女バディモノのミステリードラマに収まるのだとしたら、つまらないなぁと思っていたのだが、その予想は面白い具合にかわされていく。

 清家の推理は100%的中し、黒河内が郷田の殺人の隠ぺい工作を行ったことを暴いていくが、清家の推理は事件解決にはまったく役に立たない。黒河内が清家の発言に対し「せ~かい(正解)」と口にしながら、いつも平然としているのは、事件の謎が解けても、権力の中枢にいる人間には簡単に手を出すことができない警察組織の暗部を知り尽くしているからだ。


 沢渡の殺人関与の証拠を押さえるために郷田の邸宅へと忍び込んだ黒河内と清家は、犯行に使われた拳銃を見つけるが、七福神の仮面をつけた2人の暗殺者に命を狙われる。取り囲まれた黒河内は清家をおとりにして、2人を射殺する。清家は驚いて失禁、暗殺者の仮面をはぐと、正体は捜査一課の刑事だった。あっさりと射殺する黒河内に対し、清家は完全に無力だ。彼女は記憶したデータを元に、事件の推理をして犯人を導き出すことはできるが、逆にいうと、それだけしかできないという名探偵の限界を表している。

 しかし、面白いのは当の清家自身は、自分の無力さに対して絶望も反省もなく、淡々としていることだ。ちなみに、清家は漫画版では男性刑事となっていて、女刑事になったのはドラマオリジナルである。おそらく、今後は清家もなんらかの形で物語に絡むのだろうが、その時は天才探偵が事件を解決みたいな安易な方法ではない、面白いアプローチを期待したい。

 物語は、昭和の未解決事件「3億円事件」の犯人に迫っていく展開になるため、作品の最終的な評価も「3億円事件」の謎を、どのように描くかにかかってくるのだろうが、ひとまず第1話は、黒河内と清家、黒河内の敵として立ちふさがる沢渡県知事との関係性は面白く見せてくれたと思う。
 
 また、脚本のいずみ吉紘は、『ROOKIES』や『南極大陸』(ともにTBS系)を手掛けてきた。これまでは、テンポが悪く野暮ったい物語進行が好きではなかったが、本作に関しては、その野暮ったさが鈍器で殴られているような手応えとなっていて、作品の世界観とマッチしている。

 TBSの金曜ドラマは、裏で放送されている日本テレビの金曜ロードショーのジブリ映画攻勢に押されて、近年苦戦が続いているが、『クロコーチ』ぐらいエロと暴力に寄せた方が、うまい差別化につながるのかもしれない。今後の金曜ドラマの流れを見る意味でも要注目の作品だ。
(成馬零一)

最終更新:2013/10/16 14:42
『クロコーチ(1) (ニチブンコミックス)』
顔面のテカリ芝居がジャニ規格外!