「販売累計13,000本!」のコピーに宿る、「STORY」の生々しいバブル思想
40代のためのファッション誌「STORY」7月号(光文社)。林真理子が連載「出好き、ネコ好き、私好き」でアンジェリーナ・ジョリーの乳房切除手術について触れているのですが、「何も健康なキズひとつない乳房をとらなくてもいいのではないだろうか」と否定的。「おそらくアンジェリーナは、老いることにも全力で立ち向かっていくに違いない」としながら、3月に亡くなった田中宥久子の「年をとるのはちっとも怖くない」「老いを味方につけることをすれば大丈夫」という言葉と対比させています。先月号では60代女性が婦人科で治療を受け、50代男性と結ばれるというシーンを描いた岸恵子の小説を取り上げ、「こうした医学を味方にしていけば、いつまでもみずみずしい日本女性が出来上がる。(中略)なんだか楽しくなってきたぞ」と書いたばかり。その前の号では、法令線にヒアルロン酸を入れ、「中年は結果じゃないんだ。(中略)試行錯誤しながら歩いている。それ自体、もうひとつの美しさなんだ」と美のメンテを賛美しています。
メンテ肯定なのか否定なのか、枯れたいのか枯れたくないのか、揺れる女心……って感じなんですけど、林先生、来年60歳っすよ。「私はまだ老いることの覚悟が出来ていない」と書いてらっしゃいますが、貴女はもう老いている。たぶん気づいていないのはご本人だけかも。でも、そんな林先生を笑うことはできません。筆者は今年40歳ですが実年齢マイナス20歳くらいの自意識なので、今やっと成人したところ。最近「大人になったなァ」としみじみ思います。「オバさんになったなァ」と自覚するのは、きっとあと20年後。「ドッグイヤー」とは逆の「ウーマンイヤー」があるのかもしれません。
<トピック>
◎林真理子 出好き、ネコ好き、私好き
◎特集 速報・40代カジュアル服のグレイテストHITS!!!
◎あなたの「好き」が人のためになる
■「目の肥えた40代」という言い回しに漂うバブル感
特集は「速報・40代カジュアル服のグレイテストHITS!!!」。特集主旨を記したリード文には、次のように書いてありました。「お伝えしたいことは、『売れているものには、価値がある』。ただそれだけ。夏のファッションは“一枚”で勝負しないといけないから、多くの人を惹きつけるパワーのある服が必要です。(中略)だから一年で最もクオリティが問われるこの時季に、目の肥えた40代にHITしているものは本物というわけ」。
「売れているから本物!」ってこれ、営業マンに言われたら、あまりのうさんくささにドン引きしますよ。ユニクロしかり、AKB48しかり、「売れているものが正義、数が多けりゃ真実」という感覚はすでに崩壊していると思うのですが、どうなんでしょうか。掲載されているアイテムにも御丁寧に「販売累計13,000本!」「売れ切れ必至の6割強の消化状況」「販売累計3,000枚突破」といった“実績”を証明する説明文が添えられていて、思わず楽天のページを思い出してしまいました。スクロールしてもしても終わらないあの長ーいページ。「販売累計○千本!? 買わなきゃ、ポチッ」って、まあ明太子とかだったらありなんですけどね。
「人が持っているものがほしい」という感覚自体は否定しません。それはきっと多くの人が持っていると思うんですよ。特に「STORY」読者は浮きたくない願望が強いですからね。ただ、それをあからさまに全面に押し出す姿勢に抵抗があるのです。世代的なものもあるかもしれません。少し前まで“40代”といえば、パリのルイ・ヴィトンやミラノのプラダで行列を作っていた世代でした。しかし、新40代はDKJ(「STORY」用語で団塊ジュニアのこと)で、第2次ベビーブーム世代。激しい競争社会を生き、バブルが崩壊し「人と同じことがしたい」と思ってもままならないことが多かったので、「人と同じこと」をとうにあきらめた人も多い世代です。「販売累計○枚!」と言われても、その服を買うという行為には、あまり結びつかないんですよね。特集冒頭の「目の肥えた40代にHITしているものは本物というわけ」も、前時代の40代、つまりバブル世代向けのコピーっぽい。「STORY」の40代観、アップデートする必要がありそうです。