芸能
ドラマレビュー第4回『雲の階段』

無残な結末ほど色気を放つ、弱々しくもえげつない男・長谷川博己の『雲の階段』

2013/05/03 17:00

 「僕はダメだダメだ」と主張することで、逆にモテるという太宰治の小説によくあるタイプの主人公像だが、それを長谷川が演じると、妙な説得力がある。『鈴木先生』(テレビ東京系)でも『家政婦のミタ』(日本テレビ系)でも、一見誠実に見えるが、無自覚な保身のために平気でえげつないことをしてしまう男を演じると、長谷川は見事にハマっていた。そんな弱々しくもえげつない姿は、ある人には色気として映り、ある人には「こいつ最悪。お前、傷ついてるけど、やることやってるじゃん」と、その欺瞞に突っ込みを入れたくなる攻撃誘発性に転化されていた。どちらも長谷川の演技が持つ、人を惹きつける魅力の表れだと言える。

 原作は渡辺淳一の同名小説。渡辺淳一というと『失楽園』(角川書店)や『愛の流刑地』(幻冬舎)といった過激な性描写が話題となる作品が多いが、一方でSMAP・中居正広が主演して人気を博した『白い影』(TBS系)の原作となった『無影燈』(文藝春秋)のような医者モノも多く手掛けている。この『雲の階段』も『白い影』の系譜にあたる医療モノの作品だ。そのため、ストレートな濡れ場はほとんどないが、本作の場合は手術の場面が、性交の代償行為として描かれている。

 天才的な医療技術を持ちながら、無免許で手術することに罪悪感を抱えて苦悩する三郎は、絶倫のテクニックを持ちながらも、自分のことを童貞だと思い込んでいるような可笑しさがあり、「やめてください。僕にはできませんよ」と拒絶しながらも、ついつい手術を繰り返してしまい、その度に所長に「やっぱりお前はすごいな」と耳元でささやかれて困惑する三郎の姿は、エロティックだ。

 三郎がどんな末路を辿るのかわからないが、長谷川のエロスがスパークするような哀れで無残な結末を期待したい。
(成馬零一)

最終更新:2013/05/03 17:00
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