ドラマレビュー第3回『ご縁ハンター』

『ご縁ハンター』の観月ありさが体現する、婚活における「根拠のない自信」の無力さ

2013/04/22 19:00
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『ご縁ハンター』公式サイトより

 観月ありさは初主演となった『放課後』(フジテレビ系、1992年)以降、テレビドラマでは主演以外をやったことがなく(ゲスト出演を除く)、連続主演記録はギネスにも認定されているらしい。

 演技も歌も決して突出しているわけではない。しかし、彼女はいつも自信満々で、自分が観月ありさであることに対して一切疑いを抱いておらず、それこそが彼女の持つ強さであり、視聴者もまた、美少女の持つふてぶてしい強さを求めた。とんねるずのバラエティ番組や、デビュー曲「伝説の少女」によって刷り込まれた「観月ありさはすごい」という漠然としたイメージを世の中の人々が抱いたまま、2013年現在まで突き進んだ結果が、先に挙げた連続主演記録なのだろう。

 そんな彼女の最新作がNHKで放送中の『ご縁ハンター』だ。もちろん主演作なのだが、どうも、いつもの観月ありさ作品とは勝手が違うようだ。

 観月ありさが演じる蓮見利香は、通販会社のカスタマーセンター責任者で年齢は37歳。妹は嫁にいき、父はすでに他界しており、今は母と二人暮らし。しかし母親が再婚することをきっかけに、婚活を始めることになる。はじめは、自分のキャリアとルックスから考えて楽勝だろうと自信満々で婚活に臨んでいた蓮見だったが、パーティーでは中々相手にされず、徐々に自信を喪失していく。

 婚活市場の前では観月に備わっていた「根拠のない自信」はまったく無力であり、むしろ自分のことがわかっていない勘違いっぷりと無神経さを強調するものとして、彼女のパブリックイメージが使用されている。その意味で、彼女のファンが最も見たくなかった観月ありさの痛々しい姿が、ここでは描かれている。

 ドラマ自体は、蓮見の目を通して婚活市場を体験ツアーするような構造になっている。婚活に参加している者はSNSに登録し、自分の顔写真入りのプロフィールを公表する。年齢、職業、年収等がこと細かく表示され、参加者は毎日の近況を日記で報告。そしてアポを取りたい相手を物色するためにプロフィールを覗き込み、自分が望む結婚条件と、自分の条件を天秤にかけて、少しでも良い条件の相手を選ぼうとしている。

 作中では婚活志望者たちがモニター越しに婚活相手を物色し、相手のプロフィールを見て一喜一憂する顔を繰り返し見せることで、「選ぶ/選ばれる」という関係が持つ残酷さを当たり前のものとして描いている。

 やがて蓮見は、何人かの男とアポを取った後、仮面パーティーで知り合った女子高教師の岡村健介(丸山智己)と付き合うことになる。しかしデートを重ねる内に、彼が別の婚活相手の女性とも会っていることを知りショックを受ける。蓮見はそのことを問い詰めるのだが、岡村からは「結婚と恋愛は違う、失敗したくないんだ。君もいろんな人と会ってから選択してほしい」と淡々と対応される。蓮見は岡村の言葉通りに婚活パーティーに参加するが、やはり彼のことが忘れられない。しかし、岡村の「おかげさまで良い結婚相手が決まりました。日記もこれで最後、退会します。有難うございました」というSNS上の日記を最後にして、2人の関係はあっさり終わる。ここまでドライで冷たい失恋場面は今まで見たことがない。

 NHKは2009年に『コンカツ・リカツ』という婚活ドラマを放送している。当時の感覚では十分痛いドラマだったが、『ご縁ハンター』の婚活描写はそれ以上で、婚活という言葉が定着したからこそ、よりシステマティックな活動として描かれている。

 婚活を確率論で捉え、多くの選択肢の中から、なるべくベターなものを選ぶものだと割り切れた岡村は、結婚相手を順当に見つけることができた。しかし、コミュニケーションが苦手で、自分の市場価値を誤って見積もったり、そもそも男女の出会いを確率論的に捉えること自体に抵抗のある人間は、やがて精神的に追い込まれていく。

 この作品を見ると、婚活という概念自体が、運命の出会いを描き続けてきた恋愛ドラマのアンチテーゼとして機能していることがよくわかる。しかし、ここまで描かないと、今の時代の空気を捉えることができないのかもしれない。

ドラマは全3話で、次週で最終回だが、正直これを見続けられる自信はない。今、一番痛いドラマを見たい人と、観月ありさの今後を見届けたい人は最終回だけでも見てほしい。
(成馬零一)

最終更新:2013/04/22 19:09
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