「LEE」読者は義理ママと仲良し? “全方向幸せ”を目指す不安定な心理
適度に流行を取り入れたコーディネートに身を包み、こだわりの家具とインテリアで居心地のいい我が家を作り上げ、会社員という安定した身分ながらもその範疇の中でファッションを楽しむ夫と、いとしいわが子を育てる――。これまで散々レビューで紹介してきた通り、「LEE」読者こそ地雷の多い現代で「うまく生きる術」を身につけている人々です。でも地雷が常に変動するので、一度「順調コース」を歩んだとてそれが一生続くわけでない。「LEE」読者は常にアップグレードされる「地雷」に気を配りながら、足の幅しかないような細~い道を歩く。「私は私」と胸を張って美魔女というトライアスロンコースを走る「美ST」(光文社)読者より、常に周囲との調和を強いられる「LEE」読者の方が現代を生きるのはしんどいはず。今月号の「LEE」には、必死に他人との距離感を図り、“うまく”生きていこうとする読者の心理が反映された記事がありました。早速見ていきましょう。
<トピック>
◎LEE読者の仕事服、改めて考えました
◎うちの“義理ママ”どうでしょう?
◎おしゃれな人のおそろIKEA
■洋服に自主規制って……
「『私たち、好きな服だけ着ていられない』のが現状」と出だしから不満噴出の様子が感じられるキャッチとともに登場したのは、「LEE読者の仕事服、改めて考えました」という企画です。衣食住にこだわりのある企画が多く、着回しコーデの設定も専業主婦が多い同誌だけに、おのずと読者も専業主婦の割合が多いと思っていましたが、アンケートによると読者の50.5%が「働いている」と回答、622人中347人が「会社員」なのだとか。しかも「結婚や出産を機に退職した経験は?」という設問には、半数以上が「ない」と答えています。「LEE」読者の中に共働きが増えてきたというのは、新しい発見です。
「仕事服」に悩むというのはOL向け雑誌の定番企画で、「アフター5を考えてかわいい服を着ていきたいけど、会社で浮かないようにしたい」「デキる女だと思われたい」という読者の悩みに応える形で展開しています。が、「LEE」読者の「仕事服」の悩みは一味違います。「きちんと感を出そうと定番を着ると『ただの人』に」「自分の年齢に合う仕事服がわからなくなってきました……」「なるべくアイロンをかける服は着たくない!」というのが主なお悩み。「もう若くないんだし、無難から一歩踏み出した自分らしく品のある仕事服を」という世間からの無言のプレッシャーと、「家事を増やしたくないからアイロンが必要な服は無理!」という現実的な意見のはざまで揺れに揺れています。
じゃあ実際はオン・オフコーデにどのぐらいの差があるのかと思い、読者のコーデを見てみても、正直違いがわかりません。確かにオフの日にデニムやサロペットなど会社によっては嫌がられそうなアイテムを使っている人もいますが、たいていの人はそれほど変化がない。「ジャケット必須!」「色・柄禁止!」という細かい規則の中で仕事服に悩んでいるのかと思いきや、実際にはボーダーも着ているし、柄もOKな様子。ということは、仕事服における“不文律”がより細かくなってきた、ということですよね。「一律、色・柄禁止!」と言ってくれれば分かりやすいものを、「どこが悪いってわけじゃないけど、そのコーデは仕事にはふさわしくない」と空気を読むことを強要される。
実際に「上司がLEE世代に求めたい服装って?」という囲み記事に登場した私立大学職員の50代男性によると「学びの場にふさわしい清潔感が求められますね。一方で学生と接する職場なので、堅苦しくもなり過ぎない装いというの大切かもしれません」と抽象的な表現。さらには「さすがにジーンズやショートパンツは皆さん自主規制しているようです」と、「こっちは別にダメとは言っていないんですけど、ねぇ?」と言わんばかりに「自主規制」という言葉をうまく利用しています。家庭・子どもがありながら働くこと自体でも苦悩が多いというのに、「仕事服」でさえこんなに縛りがあるとは。「LEE」読者の歩む道は険しい!
■「うまくいっている」の意味を根底から覆す内容
今月号はもう1つ、既婚者が多い「LEE」読者ならではのお悩みに正面から向き合った、「うちの“義理ママ”どうでしょう?」という企画もあります。世間的には嫁姑問題といったら、激しいドロドロが見られるとうっすら期待しているような節も感じられますが、「LEE」読者の87%が義理ママと「うまくいっている」「まあまあうまくいっている」「普通」と答えています。「義理ママのことが好きですか?」という質問には、「大好き」「わりと好き」が52%を超えているんです。想像よりもずっとうまくいっているような感じがしますが、「義理ママ付き合い、マイルール公開!」という読者投稿を見てみると、
「くれるというものはいらないものでも必ずもらう」
「子供を預ける時は、義理ママのやり方に任せる」
「何かをいただいたらとりあえず即電話すること。でしゃばらず影薄くいること。とりあえず夫をほめておくこと!」
「『今の幸せがあるのは、義理ママが夫を育ててくれたおかげ』と考え、なるべく自分が合わせるようにする」
と多少の我慢の上で関係が築かれていることがうかがい知れます。冒頭に記したように、「LEE」読者はファッション、インテリア、夫婦関係、そして嫁姑問題まで「全方向で幸せでありたい」という願望が強いでしょうし、「仕事服」企画でわかったように仕事を持っているので、いざという時に頼れる人を1一人でも多く作っておきたいという思いもあるのかもしれません。調和を選ぶ「LEE」読者においては、「姑とうまくいっている」「姑のことは好き」と自己暗示をかけることで、危うげなバランスのもとに成り立っている今の生活を乗り切っているのでは、と邪推してしまいました。
普段、パリの街角スナップとか、辺見えみりの雑貨探しとか、平和な企画が多い「LEE」ですが、それもこれも現実に目を向けると読者が自分の足元の不安定さを直視し過ぎてしまうからかもしれません。そういった意味では、今月号は「パリの『ナチュ盛り』スタイル実況中継」と「おしゃれな人のおそろIKEA」「夏の“イケ麺”パラダイス」など、目くらまし記事が豊富にそろっています。「仕事服」「義理ママ」ページを読んでつらくなったら、IKEAのページを開いてください。ご多聞にもれず辺見えみりが登場しています!
(小島かほり)