サイゾーウーマンカルチャー女性誌レビュー無欲に見えて高望な「LEE」読者 カルチャー [女性誌速攻レビュー]「LEE」7月号 子ども、夫、おしゃれな暮らし……無欲に見えて高望みな「LEE」読者の日常 2012/06/16 17:00 女性誌速攻レビューLEE 「LEE」2012年7月号(集英社) ここ数カ月、広告出稿が順調であまり攻め入った企画がなく、いまいち「らしさ」が表層化しなかった「LEE」。ところが今月は読みどころ満載。モデル雅姫×SHIHO「私たち、これからは『ママ友付き合い』始めます!」という対談は、げに恐ろしいですよ。なんでも2人は17年来の友人なんですって。 同じ「ママ」でも、若い頃にママになった雅姫は「私のころはまだ女の人が、専業主婦か働く女性化、どっちかに分かれていた気がするな。子供をシッターさんに預けることもちょっと後ろめたかった」と先輩風を吹かせているのにも関わらず、SHIHOは終始「そうそう!」「そうなの~!」と受け流しながら、「私は今、娘がかわいくてかわいくて、家にいるなんでもない時間が至福なの」と自分の話に持って行く逞しさを見せています。言葉の端々から“相手を褒めることによって、余裕も幸せもある自分を演出したい”という無意識の思惑が伝わり、まさにハッピー頂上合戦。ハッピーかめはめ波に、ハッピー元気玉で応戦する様相を呈しています。「ママ」で「子どもがかわいい」と思うことは共通しているようだし、誰も傷つけていないから、それはそれでいっか。とりあえず、「幸せ」「幸せ」と2人のツバがペッペと飛んできそうな対談だけは読むことをおススメしますよ。そのツバを頭に浴びたら、あなたも幸せになれるかも!(適当!) <トピック> ◎私たち、これからは「ママ友付き合い」始めます! ◎ゆるフェミニン女の子ママAYUMI&クールカジュアル男の子ママ椿の夏先取り着回し10Days ◎“捨てられない君”をやっつけろ! ■イベント化せねば埋もれる日常 今月号は、ひさびさに面白い着回しコーデ企画があります。「ゆるフェミニン女の子ママAYUMI&クールカジュアル男の子ママ椿の夏先取り着回し10Days」です。明記してなくとも、専業主婦を想定したようで、シチュエーションがかなり苦しいんです。ネットサーフィンするときのコーデやら、息子と一緒にペンキ塗りをするためのコーデ(そんなおしゃれしたら、ペンキが飛んだときにどうするの! と、こっちがハラハラ)、娘とホットケーキを焼く時のためのコーデなどかなり無理がある設定ですが、そんなちっちゃいところにやんややんや言いませんよもう! 何気ない一言なのに心に刺さったのは、女の子ママの「夏先取りのリゾートスタイルで、娘たちと水族館デート」という一文です。「“娘とデート”って言ってるぅ~」と笑っている人もいることでしょう。でも、筆者は笑えなかったんです。そもそもこの企画のタイトルにもあるように、子どもの性別によって多少はファッションに影響が出るなど、母親の日常は子どもが生まれたことで、少しずつ「自分」という主語が減っていきます。常に「子どもが幸せか」「子どもが健康か」「子どもがおなかすかせてないか」という考えが日常を占め、「自分」は後回し。特に「LEE」読者にその傾向は強い。 例えば「LEE」と、ワーキングマザー向けに新装刊した「Grazia」(講談社)は、5月号でともに“家族でハワイ”なる別冊がありました。「Grazia」はなぜか最新ファッションでハワイを楽しもうと啓蒙し、10万円近くするコレクションブランドの洋服を紹介したり、ひとりファッションショーを提案したりと、主人公はあくまで「自分」でした。一方「LEE」は料理研究家のワタナベマキさん一家をモデルに、子どもと一緒に楽しめるスポットやアクティビティを紹介し、家族(=子ども)が楽しめる内容に終始していました。 そう、「LEE」読者の日常で「自分」が主人公になることは少ない。そこで「娘とデート」と自発的に日常をイベントにしないと、「日々」に「自分」が埋もれてしまうのではないかと思います。特に専業主婦に多い「LEE」読者、子どもが人間関係の起点となっていく中では、日常のちょっとした自己演出が彼女たちの楽しみだと思うと、笑えなくなっていくのです。意外と深い「LEE」の着回しコーデ、「深読みだ」という指摘は聞こえないふりをします。 ■また適当な解釈を…… 猫も杓子も断捨離な今、「LEE」読者は夫にも断捨離をしてほしいようです。「“捨てられない君”をやっつけろ!」という読み物ページは、そのかわいげなタイトルと内容のかい離が甚だしいんです。「LEE」読者の憧れる、「生活感のない」「すっきりした暮らし」を実現させるには、夫のモノを減らしてほしいのでしょう。まずは夫側の捨てられない言いわけを見てみると、妻からの辛辣な意見が飛び交います。 ・「男は思い出を捨てられない生き物だから仕方ない」→「じゃあ広い新しい家を買ってください」 ・「小学校の文集や野球でもらったメダル、学生時代の成績表、給与明細などを後で見返したい」→「たいしてよいお給料でもないのに……」 怖い! 奥様方、怒りが頂点に達しているようで、結構シビアなことを言っています。そして「夫に黙って、夫の持ち物を捨てたことは?」という問いに、なんと7割の人が「ある」と答えています。青春時代のアイドルCDを捨てようとして見つかり、夫と引っ張り合いになったエピソードや、夫のバイクのジャケットを捨てて口をきいてもらえなくなったエピソードをまとめた上で、編集部からの一言が軽い! 「妻はくれぐれも、捨てるものを間違えないように気をつけて」 マジすか、「勝手に捨てる」ことには賛成であるのが前提なんですか。夫が妻のものを捨てたら、絶対に許さないであろうに……。 そしてこの手の企画、締めはやっぱり専門家の登場ということで、精神科医・名越康文さんが登場。男は野球カードやアニメのシールを集めて、オタク気質なところがある。女性と違って、恋愛しても自分を相手に合わすこともできずに、恋が終わっても思い出の品を持ち続ける、なぜなら男は脱皮も羽化もできないサナギだから、というわかるようでよくわからない持論を語っています。そのうえで、 「僕、鉄道マニアなんかは、すごいと思うんですよ。何がすごいって、あのわけわからんものを集める情熱もすごいけど、奥さんが呆れながらも容認しているところが(笑)。それはきっと、彼らのコミュニケーション能力が高いからだと思うんです」 「結局、捨てられない夫の腹の立つところって、コミュニケーションができないことでしょう。捨てらない言いわけを妙に理屈っぽく、上目線で言ったりするところ(笑)」 「では、どうすればいいかと言うと、妻の愛にかかっているんですね。僕は散歩をおすすめします。(略)『相手と歩調を合わせる』ことから覚えさせてください」 名越さんの近くにはハイスペックな鉄道オタクがいるのでしょうか。かなり偏見に近い見解だと思うのですが……。だいたい、片付けすらしない男性が、妻と一緒に散歩に行くことをしてくれるんでしょうか。面倒な夫の教育を「妻の愛」と置き換えて、さらに「妻の愛にかかってる」と脅迫してくる怖さを、勝手に夫のモノを捨てちゃうぐらい「住みよい家」を作ろうとする真面目な「LEE」読者が素直に受け取らないように願うばかりです。 「LEE」の読者は本当に真面目。毎号、自然体ファッションを学んだり、意外と充実している美容ページを見てアンチエイジングにいそしんだり、手の込んだ料理のレシピを隅々まで読んだり、フランス映画のセットのような生活感のない部屋づくりを目指したり。「これがわが家のハピファミ時間♪」という、「LEE」読者組織メンバーのスナップを見ていると、「LEE」読者が目指す幸せがどれほど難しいかがうかがい知れます。何気ない幸せというのは、いろんな努力の結晶なのだと。夫と子どもが笑って、背景に写る部屋も片付いて、夫の身なりもキレイで、誕生日にバンドをやっている夫と子どもが歌ってくれるというのは、1日2日でできることじゃない。無欲に見えて、実はものすごく高望みな「LEE」読者の幸せの矛先は何に向かうか、注意深く見ていきたいと思います。 (小島かほり) 「LEE」 しかし集英社は「ハッピー」が好きよね 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】 ・日本の理想形? 「LEE」読者家族のバランス感覚と幸せな写真がまぶしい ・「LEE」の”女を捨てた”ファッションは、良妻賢母と同性へのけん制の証? ・実用性なし! 表層的なつくりが31万部発行を支える、不思議な雑誌「LEE」 ・ガワだけ押し付けられるイクメンブームと、つるの剛士の神格化のワケ ・超保守思想を「オシャレ」スパイスで消す、「LEE」の編集手腕 最終更新:2012/06/16 17:00 次の記事 デロリアンに乗ってタイムスリップ >