サイゾーウーマンカルチャーインタビューセックスレスに遅漏……花津ハナヨ氏に『情熱のアレ』の意図を聞く カルチャー 生々しいテーマで話題のマンガ『情熱のアレ』作者が登場 セックスレスに遅漏……花津ハナヨ氏に『情熱のアレ』の意図を聞く 2011/10/25 11:45 インタビュー 『情熱のアレ』1巻(C)花津ハナヨ/集英社 セックスレスに悩んでいるけど誰にも言えない――。そんな主人公がアダルトグッズの問屋で働くことになったことをきっかけに変わってゆく姿を描いたマンガ『情熱のアレ』。女性向けコミック誌「コーラス」(集英社)では異色のテーマながら、多くの女性の共感や支持を集めた同作が、「コーラス」11月・12月号合併特大号で最終回を迎えた。最終回を描き終えた作者・花津ハナヨさんに作品のテーマや訴えたかったこと、読者からの反応を聞いた。 ――花津さんが「コーラス」で連載を始められたきっかけは何だったんでしょう。 花津ハナヨ氏(以下、花津) 別の仕事の取材でアダルトグッズ関係の方と知り合う機会が多くて、話を聞いてるうちに「これをマンガに描けたらいいな」と思っていたんです。それで前の「コーラス」編集長に話したら、「いいよいいよ、じゃあ○月から空けとくから」ってスイスイ決まってしまって。 ――「コーラス」誌上で、これほどまでにセックスに真正面から切り込んだ作品というのは記憶にないのですが、描く上での制約はありましたか? 花津 ほとんどなかったですね。「この体位は丸見えだから、もうちょっと隠して」とか「”スピード線”をもう少し減らして」と言われたぐらいで、内容に関してはNGはありませんでした。私自身、あまりエロいものの出てこないような媒体で、恋愛マンガの延長として読んでもらいたかったんです。 ――主人公のマキは同棲していた恋人に拒絶され、セックスレスに悩みます。どうしてこのキャラクターにしようと? 花津 取材してるときにセックスレスの女性が多くて驚いたんですよ。キレイでセクシーで、なのに「全然してない」って言う人が多かったのが意外でした。「そんなにセックスレスの人がいるのか!」と。 ――主人公がセックスレスに悩む描写はすごく切実ですよね。性欲が満たされない、愛情を感じられないという以外に、女としての自信を失っていくところがリアル。主人公が自分の性欲を「汚いものみたいに思える」と悩む描写も心に刺さりました。 花津 あそこは私の思ってたことを描きました。私自身はセックスレスになったことはないんですけど、男性から拒絶されることがすごく多くて、その悔しさがにじんでるのかもしれません(笑)。 ――それは、お付き合いをしている状態で断られるんですか? 花津 そうなんです。すごいですよ、そのときの気持ちは。もう全人格を否定されたような気分になります。男性も拒まれたらショックでしょうけど、女性の場合は拒まれると自分を責める傾向が強い気がします。 ――自分に原因を探しますよね。主人公のマキが「女としてこのランクだって客観的に点数をつけてほしい。そうすれば自信も諦めもつく」というセリフも強烈でした。 花津 ずっと思ってたんですよね。女性検定やフェラチオ検定みたいなものがあって、自分が何級なのか分かれば自分なりの自信も諦めもつくじゃないですか。そうだったらラクなのにって。 ――主人公以外のキャラクターも、主人公に言いよる「王子」は遅漏だったり、主人公の親友の由美はセックスがあまり好きじゃなかったりと、性に何かしらトラウマのあるキャラが多いですよね。 花津 私は、性にトラウマがまったくない人の気持ちが分からないんです。だからセックスに重点を置いて話を作りたかったんですよね。私自身は一時期セックスのマニュアル本を読み漁って、「こういうふうにするんだ」と教科書のように信じてました。けど、実際に男の人に試して喜ばれるかというと、そういうわけでもなかった。だから「マニュアルに従ってなくてもいいんじゃない? それぞれの形でいれば」ということを描きたかったんです。 ――花津さんご自身がそう思えるようになったきっかけはあるんですか? 花津 多分、パートナーができて気持ちが落ち着いたんだと思います。落ち着いてみると「マニュアルに従ってればいいっていうもんじゃないんだ!」と分かったし、技術的につたないことがアリな男性もいるということが理解できました。 ――主人公のマキはセックスしたい気持ちが強い女性ですが、性欲との折り合い方はなかなか難しい問題ですよね。 花津 その問題、私がどうしたらいいのか教えて欲しいですよ! ――それを教えて欲しいと思ってみんな『情熱のアレ』を読んでるんですよ(笑)! 花津 私は性欲をどうしたらいいのか分からなくて、一時期は夜中に走ったりしてましたもん(笑)。「常にモンモンとしてるのは運動しないからだ!」と友達に言われて、全力疾走。走っても何も解決しなかったですけど。 ――性欲だけを解消できればいいのかというと、そういう問題でもないような気もします。 花津 割り切ってそれだけで済むんだったらいいですけど、それで埋まる穴じゃないっていう部分もあると思うんです。そこがめんどくさいですよね。ただセックスすればいいってわけじゃないし、したらしたで胸がえぐられる思いをして終わることも多い。 ――主人公もそうでしたが、パートナーとの間でさえセックスの問題について話し合えなくて悩んでるという「話し合い以前の悩み」も今は多いですよね。 担当編集 花津先生とよく話していたのは、「二人だけの問題で、二人で解決する以外に誰も関われない問題なのに、話さないというのは不思議だね」ということです。悩んでいても誰も正解を言ってくれないし、教えてくれない。そこでパートナーが話し合いに応じてくれなかったら、こんなにひとりぼっちの世界ってあるのか、と思います。 花津 私もずっと言えなかったですね。言って「(彼が)勃たなくなったらどうしよう」という不安があって。 ――作品に対する、読者の反応はいかがでしたか? 担当編集 連載開始当時の反応は「こういう連載を待ってた」という人と、「こういう作品はやめて欲しい」という人にハッキリ分かれました。でも回を重ねるごとに反対派が何も言わなくなって、アンケートの順位も面白いように上がっていきました。読者から、「『情熱のアレ』は私の人生を変えてくれたマンガです」という声も多く、「自分をポジティブにしてくれた」「性に対する考え方を変えてくれた」と言って下さる方もいましたね。コミックスの2巻を発売するにあたり、アダルトグッズが当たるキャンペーンをしたときの反応もすごく良くて「『集英社』の封筒で届くならいいかと思って」とか書いてありました(笑)。 ――作品を通して、読者に訴えたかったことは? 花津 セックスしたいならしたいでいいし、したくないならしないでいい。なのにどちらも他方から責められてるような気がしたり、自分で自分を責めちゃったりして苦しんでる人が多いと思うんです。何かに縛られてるわけじゃなく、自分で自分を縛ったりしちゃう。それから解放できればいいなと。 ――次回はどんな作品を描きたいと思ってらっしゃいますか? 花津 次はセックスがまったく出てこない話を描こうかなと思ってたんですけど、今日とある先生の作品を読んでたら、以前描いた話と同じようなモチーフで(笑)。だから私もまたきっとセックスの話を描くんだろうな~と思います。直接的にセックスの話になるかどうかは分からないですけど、女性特有のものが出てくるんじゃないでしょうか。 (雨宮まみ) 『情熱のアレ』1巻 最終話は11月18日発売の4巻に収録されるってよ!! 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】 ・男だった女・能町みね子が語る、セクシャリティーで異なるさまざま友情 ・「この国は東電OLになった」北原みのり氏が語る、女性のセックス観の変遷 ・「穴さえあれば女なんだ」、作家・花房観音が劣等感の末に見出した真実 最終更新:2011/10/25 23:06 次の記事 錚々たる芸能人とパーティー? 気鋭書道家はあの超人気女優のお母さん >