オーガニックコスメ、独り勝ちの理由(前編)

オーガニックコスメ市場の”勝ち組”から見る、現代コスメのニーズ

2011/08/02 11:45
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Photo by ppacificvancouver from Flickr

 百貨店の華やかな化粧品売り場、そこは化粧品業界の隆盛図だといわれている。百貨店に入れるブランドは勢いのあることを示しているし、客足の良い通りや壁側にカウンターを設けられるのは売り上げの高さを示している。百貨店の売り上げが減少傾向にあると言われていても、やはりブランド側にとってカウンターを設けることがステイタスであることには変わりない。

 ここ最近改装した百貨店の売り場を見てみると、大きな変化が起こっているのが分かる。それはナチュラル、オーガニックコスメのセレクトゾーンが目玉として入っていること。これまで5階や6階などでひっそりインテリアや雑貨と一緒に扱われていた自然派系のコスメが一般の化粧品と肩を並べて売られている。これは化粧品業界のマーケットの動きとほぼ連動するものだ。

 化粧品をもっとも買う世代は10~20代の女性たち。彼女たちが化粧品業界の消費の中心だったのだが、そもそもの人口の減少や不況・デフレなどが影響して今や彼女たちの購買行動は芳しくない。そこでエイジングケアやメンズ化粧品が登場するわけだが、それでも化粧品全体では微減あるいは横ばいだ。その中で唯一”動いている”カテゴリーがオーガニックコスメ。

 日本ではオーガニックコスメのカテゴリーは2003年あたりから少しずつ伸長してきた。それらは業界側が仕掛けたものではなく、スローライフやロハス、食の安全といった人々の希求に突き動かされたものだ。その勢いは収縮することなく、前述したようにここ数年でついに百貨店にまで行きついたのである。創成期にオーガニックブランド”アグロナチュラ”を手掛けたトライフの手島大輔代表にその軌跡を分析してもらおう。

「振り返ってみると日本のオーガニックコスメの成長期は03年から05年あたり。ロクシタンが直営店を出し始めて、05年には薬事法改正による規制緩和で海外のオーガニックコスメブランドが日本に次々と上陸した。アグロナチュラやドイツの老舗ブランドの認知が進んだのもこの時期だった。08年はいわば絶頂期。その後成熟期を迎えてほとんどのオーガニックコスメは日本で手に入るようになった。今は飽和状態と言ってもいい」

 市場にはメジャーからマイナーまでありとあらゆるオーガニックブランドが揃う。ただその受け入れられ方は多少海外と日本では差があって、海外ではそれほどメジャーではないブランドでも日本では成功していたり、その反対というのも実は多い。飽和状態の現在のマーケットでは、知らないうちにブランド間の勝ち負けがついているということか。一体なぜそんなことが起こってしまうのだろう。


「日本に導入されたオーガニックブランドでも、すでに撤退したブランドも数知れない。日本のマーケットには二つの大きな課題があって、一つには日本の輸入業者の多くが中小企業であって資本力が弱いということ。そして二つ目には薬事法の絡みもあって、海外のブランドが日本に本格参入する障壁になっているということだ。日本の薬事法をクリアするには日本向けに新たに製造することになり、それよりは北米に輸出した方が楽だと思っているのだろう。日本のオーガニックコスメ市場は約200~400億円とされていて、成長は続けているものの市場規模からみるとアメリカやヨーロッパとは違って小さいものだ」

 海外ブランドで多用されているある種の保存料が、薬事法では狭量しか許容されておらず、それがネックになっているのだという。もしそれが検出された場合は回収ということになる。日本は世界第2位のマーケットであり、どうしても参入したい海外大手は日本仕様に作り変えても直接参入してくるのだ。それ以外のブランドはヨーロッパと北米の間で取引されることになる。

 ではそういう状況下でも売れている勝ち組の共通点とは?

「もちろん成功しているブランドはマーケティングやブランディングが上手かったというのはある。ただそこに共通点はなくて、ロクシタンは女性のライフスタイルをよくリサーチして駅ビルという立地を選んだし、ジョンマスターオーガニックは普通では入りにくいサロン流通という販路をまず初めに攻めた。それまでどのブランドもしてこないことにトライしたのが奏功している」

 程よく漂うおしゃれ感、そして買いやすさとラグジュアリー感の絶妙なバランス。勝ち組コスメはこの”総合力”が高い。加えて既存の概念にとらわれずに、新しいカテゴリーに相応しい販路や流通を開拓したところに大きな軍配が上がったということらしい。


「さらに他の成功ブランドも併せて細かくみていくと、実は”香り”に共通項がある。どれも共通して”分かりやすい”香りだということ。バラならバラでスパイシーな複雑さよりも、合成香料も含めて華やかでシンプルなものが受けている。これは購買層の変化が関係していて、オーガニックの導入期にこれらのコスメを愛用していた世代と、今の主な購買層の趣向が異なっているのだ。つまりコンセプトは複雑さよりも分かりやすいもの、そしてストイックなものよりも率直にカワイイと思えるもの、というように時代は変わってきている」

 オーガニックコスメとは3年以上農薬や化学肥料を使っていない農地で植物を育て、その植物を原料にしたコスメのことを指す。日本の場合は0.1%でもオーガニック原料が入っていればオーガニックと呼ぶので、”完全なオーガニック”と”ちょっとだけオーガニック”が市場に混在することになる。得てして後者が粗悪品でない場合も多くて、メインストリームはこの選り分けに躍起になったりせずに、雰囲気のかわいらしさという”直感的な”選択をしているのだ。

 「今の勝ち組がずっと売れ続けるわけではないと思うが、今後5年くらいはこのままの路線でいくと思う。スピーディーにニーズを掴み、ECでも直営店でもよりアクセシブルな戦略が必要なるだろう」とのこと、資本の大小が必ずしも勝敗を決めるわけではないという結論に至る。

後編につづく

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ストイックさとかわいさ、ならどっちを選ぼう

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最終更新:2011/10/04 19:14