[女性誌速攻レビュー]「STORY」8月号

岡本夏生が、荒木師匠が語る! 去りゆくバブルに「STORY」が捧げる巡恋歌

2011/07/04 16:00
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「STORY」(光文社)2011年8月号

 「ニッポンの40代はもっともっと若くなる!」をコンセプトに、一昔前なら眉を落としお歯黒をキメていたであろう女性たちに、現役感を与え続ける「STORY」。しかし、姉妹誌「美STORY」(光文社)の台頭、バブル世代とDKJ(団塊ジュニア)世代の軋轢、そして3.11以降の贅沢は不謹慎的風潮などさまざまな向かい風が今、「STORY」を襲っています。奇しくも今月より新編集長を迎える同誌。この難局をどう乗り越えるのか。今月号は「STORY」を語る上で、大事な号であることは間違いなさそうです。

<トピックス>
◎大特集 輝く40代の働く喜び、着回す幸せ
◎BIG SNAP「美しくなった40代」が、街を元気にしてる!
◎40代も乗り遅れるな!新大久保

■「STORY」渾身の着回し企画

 まずは大特集「輝く40代の働く喜び、着回す幸せ」から。いわゆる着回しコーディネートです。しかし、「STORY」で着回しテクってほとんど見たことないんですよ。一般的にはアリですが、「STORY」読者に「着回す」という貧乏臭い概念があったのかと、若干の驚きがあったことは事実です。

 今回も「DKJ vs バブル」という対立軸がメイン。「倉木康子40歳、ST化粧品派遣社員」と「前田典絵45歳、ST化粧品マーケティング課勤務」の二人が、仕事で、家庭で、オシャレで、華麗な戦いを繰り広げるというもの。しかも驚くことに、なんと3カ月バージョンです。

 まぁこの二人がとにかく仲が悪く、何かあれば「あらあらバブルさん、張り切りアイテムばかりね」「出たわ~煮しめ色! 女か男かわかんない」とディスり合い。着回し企画のプロレス的要素もいかんなく発揮されており、エレベーターで偶然遭遇したシーンでの「きどって立っちゃってまるでお局ね」と毒づく倉木康子のふてぶてしさなんて、リアル過ぎて怖いです。壁にもたれて爪を眺めながら悪態つく着まわしコーデなんて見たことない。


 約90日間分のアイテム(×二人分)を紹介しながら、それぞれに物語を展開させながら、キャラもしっかり立たせる、こんなに読み応えのある着回し企画は珍しいと思います。内容が面白ければ面白いほど肝心のアイテムには全く目が行かなくなるという、本末転倒現象が往々にして起こる「STORY」のファッションページですが、今回はさすがに「40代女性の欲するところはコレか」と参考になりました。しかし、何でしょうか、このどこか物足りない気持ち。例えて言うなら「頭が良くて、でもそれをひけらかさなくて、尽くしてくれて、洒落も分かる」男を捕まえたにも関わらず、「ちょっといい加減で、強引で、いいカッコCで、気分にムラがある」昔の男が、なぜか懐かしくなるような気持ちです(経験ないけど)。

■結局……バブルって、何?

 やれ享楽的だの、自己中心的だの、KYだの、下の世代から呪詛され続けるバブル世代。そんな昨今のバブル批判に一石を投じるのが、「私たちのCHALLENGE STORY 『負けない、腐らない』バブルが私を強くした」。キャッチの「元気が欲しい今の日本、この人たちの生き方が参考になる」かどうかは分かりませんが、勇気を出して読み進めます。

 「バブルのアイコン」として登場しているのが、岡本夏生、荒木師匠(荒木久美子)、初代から騒ぎの島田律子、家田荘子先生。名前だけ見ると、大トロにハラミにとんこつラーメンといった脂濃いめのラインナップ。しかし、年月とともに余分な脂も落ちるのか、どなたも程良く枯れた仕上がりに。

 皆さん、異口同音おっしゃるのが「あの時代は狂っていた」ということ。その狂気に翻弄され、潜伏生活を送らざるを得なかった岡本夏生。お立ち台の女王として名を馳せるも、陰では「『お前なんかヘアヌード写真集出して終わるよ』と馬鹿にされていた」荒木師匠。浮かれたバブルに現実逃避し、自閉症の弟の存在を黙殺していた島田律子。しかし、この方々が「私にとってバブルとは」と語れるのは、狂った時代に「乗りはすれども流されず」だったから。『バブルと寝た女たち』(講談社)を著した家田先生曰く「ぜいたく癖から抜けられず、買物を続け売春を始めた主婦や、借金が増えて風俗で働くようになった銀行員など、人生が崩壊した人も後を絶たなかった」とか。


 戦後、我慢に我慢を重ねながら働きまくった日本人。そのフラストレーションが頂点に達したその時、まるでシャンパンの栓がポ~ンと開くようにとめどなく財が、欲が、美徳があふれ出したバブル時代。バブルレディーたちのお話を聞いていると「あの時代は狂っていた」という回顧は「でもあの時代があったからこそ今の自分がある」という強い自己肯定に繋がっていて、それが、良き時代を経験したこともなく、自己肯定力に乏しい後進世代をイラっとさせるのであると、なんとなく察した次第です。しかし、再ブレークを果たした夏生姐さんにしても、弟との歴史を本にした島田律子女史にしても、バブルの引き潮を俯瞰してベストセラーを叩き出した家田先生にしても、商魂たくましいことはこの上ない。撃たれ弱く、個性のない世代がそれをとやかく言うのはやっかみに過ぎないのです。

 バブルの匂いはガンガンに漂わせても、「バブル」という言葉の扱いについては非常に慎重だった「STORY」。それがここ最近、頻出するようになったのは、俯瞰してネタに出来るくらいの距離感になったからなのでしょうか。それでも、連載(「出好き、ネコ好き、私好き」)で今日も林真理子先生は、上野にオペラを見に行く時の格好が決まらないとか、ドレスにカーディガンを羽織るとババ臭くなるとか、駅の下りの階段が怖いとか、オチのない話を延々綴っていらっしゃいました。そうか、変に謙遜したり過去を顧みたりするのは、凡人のサルベーションに過ぎないのか。さまざまな角度から「あの時代」を感じ取れる、「STORY」ってやっぱりスゴイと痛感です。
(西澤千央)

「STORY」

バブル世代は、散々団塊世代をディスってたからな~

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最終更新:2011/07/04 16:00