[連載]マンガ・日本メイ作劇場第7回

完璧すぎるスペックと半ズボンが少子化社会を暗示する『CLAMP学園探偵団』

2011/04/06 19:30
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『CLAMP学園探偵団』(角川書店)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 『毎日かあさん』(西原理恵子、毎日新聞社)を読むと、息子と娘の生物としての違いがよく分かる。母親にとって息子というのは、気が利かなくて乱暴者で、お洒落や勉強に興味がない、未開の地の生き物らしいのだ。この生物をしつけるのにどれだけ大変かという話がゴロゴロ書いてある。以前、ハーフの愛娘を生んだ武田久美子が、「レストランなんかでマナーの悪い子どもを見ると、いったいどんなしつけをしているのかと思う」というようなことを書いていたことを思い出し、きっと世の中の息子を持つ母親らから大バッシングを受けただろうと、目頭を熱くしてしまった。

 しかし『CLAMP学園探偵団』(CLAMP、角川書店)に、すごい男たちがいる。頭脳明晰で徹底的なフェミニスト・妹之山残(いものやまのこる)、運動神経バツグンの鷹村蘇芳(たかむらすおう)、そして一流コック以上の料理の腕を持つ伊集院玲(いじゅういんあきら)だ。彼らは尋常ならざる能力を持って、次々と事件を解決していく。とんでもない金持ちでもあり、10億円くらいならポケットマネーだ。10億って言ったってリラじゃないですよ、円ですよ。

 特に妹之山は金持ちだわ女好きだわ、世の中すべてのものが入れ食い状態である。そしてこの話、なにが一番すごいかって、この3人はまだ義務教育の真っ最中、小学生なのである。小学生だけに、彼らは太もも丸出しの半ズボンを着用。これのおかげで「ハイ、第二次性徴もこれからなんです」という感じがムンムンしてくる。

 基本的にお祭り騒ぎ的な学園に住む人たちの事件簿なので、幽霊が出たとか、校内で捜し物しましょうとか、その程度。それを、妹之山がじっくり女の行動を観察して、「彼女ならこう考える」「彼女ならこうする」と、犯人の心理を読み解き、事件を解決しちゃうのだ。

 第二次性徴もまだ遠い小学生のくせに、なぜ妹之山はこんなに女好きなのか……。彼の身体のいったいなにが、こんなに女を求めているのだろう。スッキリと描かれた短パンを見るにつけ、不思議な気持ちでいっぱいだ。


 そしてすごいのは、登場する女たち、ばあさんから大学生から、どいつもこいつも、彼ら3人に対して深い敬意を払い、悩みを打ち明けちゃったりして、ものすごくまっとうに話をするのである。いやー、もし自分の目の前に小学生が現れて、「どうなさいましたか?」とか聞かれても、「あー、坊や敬語がお上手ね、でも小遣いやるからちょっとあっちに行っててちょーだい」だろうな。子ども相手に真剣に対応なんかしてらんないですよ。親の金で飯食ってるような未成年にさ。

 そして謎なのが、妹之山がいつも山のように抱えている書類の山。いくら生徒会長とは言っても妹之山は所詮小学生。分数のかけ算習ってるような小学生に、いったい何の決裁権があるんだろう。大人はどこへ行った?

 そうか、わかったぞ。このマンガのカラクリが。世の中、自分が大人になってくると、小さな子供にはいろいろ大目に見てやることが多くなる。テストで100点取ったら「すごいね~!」、落とし物を交番に届けたら「えらいわね~」。大人だったらまるで評価されないことでも、子どもがやれば大喝采だ。子どもの頃は、自分がなにかどえらい大物になれるような、無駄な期待を抱いているものである。

 同じような設定のマンガ『有閑倶楽部』(一条ゆかり、集英社)では、主人公が高校生なので、彼らが解決する事件は、人が死んだり海外へ飛んだり、割と大がかりな事件だ。一方『CLAMP学園探偵団』の面々が解決する多くの事件は、国家を揺るがすとか、人の生死に関わるものではなく、割とささやかな話が多い。そう、この話は、小さな子どもたちが知恵を絞って解決してくれたお話を、大人たちがこぞって拍手喝采してやってるという、少子化の時代、いかに子どもを手厚く扱いましょうかという話なのである。

 だとしたら、『毎日かあさん』に登場する息子たちの行状と、『CLAMP学園探偵団』の少年たちの出来具合が別生物のように違っても、納得できる。前者は子どもを大きな心で拡大解釈せずに見た話、後者は子どもを大きな心でせっせと褒め称えてやっている話。要はどっちの作品も周りが大人だってことなんだな。


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■メイ作判定
迷作:名作=9:1

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『CLAMP学園探偵団』

全員、京本政樹に見えてしまう……

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最終更新:2014/04/01 11:37