[連載]海外ドラマの向こうガワ

あの大統領の側近がアドバイザーを務めた『ザ・ホワイトハウス』

2010/01/18 11:45
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ザ・ホワイトハウス<フィフス・シーズン>コレクターズ・ボックス

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 アメリカ人の多くは、「自国が世界一」「世界の中心は我が国」だという強い誇りを持っている。星条旗を掲げながら、数々の苦境や苦難、災いを乗り越え、「豊かで強い国アメリカ」を築き上げてきたのだと自負しているからだ。

 そんな彼らの国民気質は「正義感の塊」と「高いプライド」、そして「優越感」だといえよう。むろん、それは過去最悪の経済不況に見舞われ、若い兵士が大勢死んでいる「終わりの見えないテロとの戦争」真っ最中である今現在も、揺るぎ無いものとなっている。

 プライド高き「正義国家」アメリカを信頼し、依存しきっている国も少なくない。世界の平和を守るアメリカは常にヒーローであり続けることを求められており、また、アメリカ国民も「ヒーローになれるのはアメリカをおいて他にはいない」と固く信じているのである。

 アメリカが「世界のヒーロー」であり続けるためには、誰からも尊敬される「威厳に満ちた」アメリカ合衆国大統領の存在が必要である。歴史が浅く、民主主義国家のアメリカには王族はいない。そんなアメリカにおいて、大統領は国民を、守り、奮い立たせ、引っ張る「強きリーダー」であるほか、国父であり、国の象徴的役割もこなしているのだ。

 誰が大統領になるかは、間接的ではあるが「国民参加型」の一般投票により決定する。正確には、何度も選挙を繰り返し、最終的に国民は大統領選挙人を選出するのだが、このような複雑なシステムのため、実は投票率は日本の選挙よりも低い。しかし、「我々が大統領を選ぶのだ」という思い、そして国民の政治意識レベルは、日本の比ではないほど高いものとなっている。


 この民意を反映するように、アメリカでは大統領が登場する政治系映画やTVドラマが数多く制作されてきた。面白いことに、必ずしも大統領に満足している人ばかりではない、という国民の不満が大半の作品に映し出されており、「腹黒い大統領」「秘密の多い大統領」「裏切り者の大統領」や、「ブレイン任せの頭が悪い大統領」など、実在の大統領を風刺したものも少なくない。大衆にとって最も身近な娯楽であるTVドラマでは、特にその傾向が強く「そんな大統領は見たくもない」「不愉快だ」と思われるせいか、政治ドラマは視聴率が取れない、というのが業界の定説であった。

 しかし、この定説を覆し、ハリウッドに大きな衝撃を与え、数多くの銀幕スターたちをTVドラマ/コメディーの世界へと導くこととなった政治ドラマが、1999年に米NBCネットワークで放送開始となった。アメリカ合衆国大統領と、彼を舞台裏で支えるスタッフたちの活躍を描いた大作ドラマ『ザ・ホワイトハウス』である。

■大統領のカリスマ性が成功のカギ

 「アメリカ政治の中枢」ホワイトハウス西棟を職場とする、肩書きや任務、バックグラウンドや性格、年齢も異なるが、「大統領を全身全霊で支える」という使命で繋がっている超一流スタッフたちが、「大統領が軽い自転車事故に遭い、怪我をした」との連絡を受け、あたふたと振り回されるというシーンから物語は幕を開ける。彼らエリート軍団たちが日夜問わず奮闘する姿が、ドキュメンタリーを見るような臨場感溢れる映像法で描かれている同作品は、放送開始と共に多くの視聴者を引き寄せた。

 普段、国民の目に触れることのない大統領執務室や閣議室、定例記者会見室などを、スタッフ目線で見られること。人種、性別関係なくチャンスが与えられるアメリカとはいえ、やはり多少の差別はあること。時事的なネタを反映したエピソードが多かったことなども、アメリカ人の関心を集めたといえるだろう。


 また、ビル・クリントン第42代大統領のスピーチライターが、制作アドバイザーとして細部に渡りチェックを入れたことで、「最も理想的な形の民主的政治」をリアルに描くことに成功。評論家や政治家、ホワイトハウスで働いたことがある元スタッフらからも、「実際のホワイトハウスで繰り広げられている世界が、忠実に再現されている」と高い評価を得ている。

 しかし、何といってもストーリーの中心となるジョザイア・エドワード・バートレット大統領の、「正義感溢れ」「国民を第一に考え」る「人間味ある理想のリーダー像」が、ドラマを成功へと導いたといえよう。どんなに頭がきれるスタッフもかなわない「的確な決断力」、誰も太刀打ちできない「カリスマ性」が、アメリカ人が描く「ヒーロー」にぴったり合い、空前のヒットとなったのだ。

 日本でも昨年12月にリリースされたシーズン5では、国民から選ばれた大統領としての「威厳」が試される、複雑で緊張感漂うエピソードが多いが、「なぜ、彼でないと大統領は務まらないのか」を表現することに見事成功。バートレット大統領役のマーティン・シーンの迫力ある演技も一見の価値がある。

 有能な脚本チームが執筆するストーリーラインは、どこをつついても「ボロ」が出ない完璧なものだったこと。シーズンを重ねるごとに制作費用が増え、映画顔負けの迫力あるシーンが登場するようになったこと。『ザ・ホワイトハウス』は映画を超えるTVドラマだと言われるようになり、「映画は一流、TVドラマは二流」「映画で売れない役者がテレビに出る」というハリウッドの固定概念を払拭。『24』のキーファー・サザーランドなど、『ザ・ホワイトハウス』を見て、これまで敬遠してきたTVドラマへの出演を決めたスターは多い。

 TV業界だけでなく、政治、大統領のイメージを大幅にアップさせ、アメリカを愛する国民のプライドを満たしながら、娯楽として楽しませることに成功した『ザ・ホワイトハウス』。世界に君臨し続けるアメリカの底力を感じることができる本作品は、国、人種関係なく観る者全てを成長させてくれる、そんな効果も期待できる大作なのである。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『ザ・ホワイトハウス<フィフス・シーズン>コレクターズ・ボックス』

日本にも頼れる政治家がいればいいのにね

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最終更新:2010/01/18 11:45