『アド街』が30周年の金字塔 文化遺産という街の映像記録と元Pが語る長く続いた勝因“菅原ism”

2025/04/09 12:00
サイゾーオンライン編集部

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『アド街』が30周年の金字塔 文化遺産という街の映像記録と元Pが語る長く続いた勝因菅原ismの画像1
(写真:Getty Imagesより)

 テレビ東京の情報バラエティ番組『出没!アド街ック天国』が3月22日に1500回を迎え、3時間半スペシャルが放送された。『アド街』は愛川欽也の司会で1995年にスタート。愛川は2014年に『情報テレビ番組の最高齢司会者』としてギネスブックにも載ったが、2015年に番組を卒業し、井ノ原快彦にバトンタッチして30周年を迎えた。

 近年は、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)、『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS系)、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)など、長寿番組が次々と終了しているが、『アド街』は1500回特番で「これからの30年もよろしく!」と高らかに宣言。しかし、スタート時の期待は決して高くなかったという。

「1つの街を取り上げて紹介する番組は『アド街』以前にもありましたが、取り上げられるのは銀座や渋谷といった人が集まる街か、浅草、鎌倉、京都などの観光地ばかり。“それ以外の街を取り上げても、住んでいる人以外は誰も見ない”というのがテレビマンの見方でした。しかし『アド街』で取り上げる街はどんどんマニアックになり、各駅列車しか停まらないような駅がテーマになることも。これまでの放送では、北は利尻・礼文から南は石垣島、さらに海外も何回も訪れています」(テレビ情報サイト編集者)

 1500回特番では、取材で訪れた店が1万3000軒以上、撮りためたアーカイブが2万2500時間もあることが判明。貴重な映像がふんだんに紹介された。ライターの金子則男氏は言う。

「この30年、渋谷や下北沢、二子玉川の駅前は様変わりしましたし、築地市場、表参道の同潤会アパート、歌舞伎町のコマ劇、船橋のザウスなどは跡形もない。一方、みなとみらいや汐留は、『アド街』が始まった頃には街そのものが存在していません。『アド街』は、そういった街の風景がすべて映像で残されている。もはや文化遺産といっても過言ではありません」

長寿番組になる秘訣

 番組が長く続く要因として、日本テレビで42年間プロデューサーを務めた尼崎昇氏は、今回の特番の視聴率が6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、同時間帯の『格付けチェック』(テレビ朝日系列/ABC制作)の13.5%に続く同時間帯2位という高視聴率だったことを指摘したうえで、「安定した高視聴率&長寿の秘訣」を、演出家&プロデューサーの視点で語る。

「総合演出(現・監修)の菅原正豊氏は『タモリ倶楽部』、『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』(いずれも日本テレビ)などを立ち上げ、今も『秘密のケンミンSHOW 極』(読売テレビ)を手掛けている。手がける番組すべてが人気を博す背景には、徹底した“菅原ism”があります」(尼崎氏、以下同)

 “菅原ism”のポイントは4つだという。まず1点めは、「徹底した押し相撲」。

「一本調子の早いテンポで押しまくり、視聴者はあっという間に60分押し切られる。『アド街』は1時間番組で正味45分、10位~1位をやってスタジオも入れると1項目3分台。そして、日本人はランキングが大好き。これが10位でこっちが7位なのはおかしい、なんて思っていたらとっくに次に行ってしまう。疑問を挟む時間もないほどのテンポ感が心地いい」

 2点めは、「BGMがお洒落で音がデカい」。

「喋りの邪魔になるかも、と思われるくらい音響レベルが高い。そして何の曲かわかる。さらに紹介する街や店や商品にひっかかっている。思った以上に数字が取れるコツです」

 そして3点めは、「MCや出演者がお茶の間の“顔”で、手堅い」。

「前MC(あなたの街の宣伝本部長)の愛川欽也はすでに一時代を築いており、アド街でもギネス世界記録を達成しています。後任の井ノ原快彦はNHK『あさイチ』で平日の朝の顔。レギュラーパネラーも峰竜太が『ホンの昼メシ前』、薬丸裕英は『はなまるマーケット』でやはり平日毎日のMCを務めていました」

 最後となる4点めは、「見知らぬ街ほど数字が取れる、という法則をよくわかっている」。

「事実、代官山や自由が丘、田園調布のような洒落た町は数字が取れず、下井草や町屋、竹ノ塚、亀戸で1時間特集を組み、高視聴率をかっさらう。私もスタッフに今でも言うのですが、東京の“右”の方が数字が取れるんです。そういう地域の方が地上波TVをよく見てくれるのと、“知らない街を歩いてみたい”という好奇心と旅へのあこがれをそそるのです」

 菅原氏の自著『「深夜」の美学』(大和書房刊)には、若手Pだった佐久間宜行の『アド街』について「1個の街、知らない街でやるわけじゃないですか。(略)不思議な番組でしたよ、なんで視聴率いいんだろうって」という問いに対し、菅原はズバリ「逆に狭くしていったほうが受けるんです」と回答している。

「これに同氏の手がけた『タモリ倶楽部』のようなマニアックでシニカルな独特の目線が加われば百人力。アド街の高視聴率&長寿は、起こるべくして起こっているんです」

 このまま40年、50年と歴史を記録し続けていってほしい。

(取材・文=木村之男)

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最終更新:2025/04/09 12:00