【業務スーパー】「回収・返金」が年中行事化するヤバさ……なぜ問題を繰り返すのか?

2024/09/16 15:00
小林久(元スーパーやまと社長)
業務スーパー(写真:サイゾーウーマン)

 「業務スーパー」といえば親会社の神戸物産が独自に仕入れる輸入品や、同社独自のPBアイテムも人気が高いが、販売商品の回収品目の多さが昨今指摘されている。問題のヤバさを小林久氏に解説してもらった。

目次

業務スーパー、「冷凍アスパラガス(ホール)」回収命令
「ノーチェックなのか?」と疑われる事例も
再発防止策も公表されていない
業務スーパー、2024年の回収品目一覧

業務スーパー「冷凍アスパラガス(ホール)」回収命令

 圧倒的な低価格とプロ仕様の大容量パックで人気の「業務スーパー」。親会社の神戸物産が独自に仕入れる輸入品や、同社独自のPB商品も人気が高く、ほかでは見られないお買い得商品の数々はテレビをはじめとしたメディアで取り上げられることが多い。

 「業スー」との愛称でも親しまれている同店だが、販売商品の回収品目の多さが昨今指摘されている。消費者庁リコール情報サイトによれば、2024年1~8月までの回収対象品は6品(同店HPでは9点)。一部報道によれば、23年4〜9月は半年で19品が回収・返金対象になっていたという。

 これがどれほどの社会的影響のある問題なのか? 創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で、著書に『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)を持ち、自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている小林久氏に解説してもらった。


「商品回収はスーパーにとって大事件であり、食中毒と並んで一番避けたい問題。一歩間違えると経営そのものが揺らぐほどのもので、本来なら一度全店を閉めて、全商品をチェックし直すくらい重大です。テレビなどでの報道のされ方、店舗やホームページでのお知らせや回収方法の告知など、その扱いを少しでも間違えたら、それまでの信用を一気に失くし、風評被害を生む。ヘタをすれば会社自体の存続さえ危うくなるのが、商品回収というものです」

 業務スーパーで今年回収となった品目と理由を一部挙げると、PB商品「金の鶏だし」がアレルゲン「卵、小麦」の表示欠落。同じくPB「マイカップDEヌードル(カレー、チキン、ビーフ)」 がアレルゲン「卵、乳成分」の表示欠落。「冷凍アスパラガス(ホール)」が一部商品において基準値を超える残留農薬が検出されたとある。

 これらのうち、「冷凍アスパラガス(ホール)」は「回収・返金」よりも健康被害への危険度が高い「回収命令」にあたる。残留農薬というとピンとこない人でも、「基準値を超える3種類の殺虫剤を検出」となれば驚くのではないだろうか。

「業務スーパーはこの回収を怠ると、次は消費者庁から営業停止レベルの行政処分が出るのでは? そもそも指導が入らないのが不思議なほどの発生件数ですが」

イオンの対応と業務スーパーの違いは? 「ノーチェックなのか?」と疑われる事例も

 回収騒動はイオンなど大手企業でも発生しているが、その頻度は業務スーパーより極めて少ない。「安さを求める消費者のために、少しでも役に立ちたい企業側の努力は評価できる」とした上で、業務スーパーの問題点を同氏はこう分析する。


「価格を優先すればどうしても品質は低くなる。そこで商品チェックの人件費を削減したり、従業員教育を怠ったりすれば、今後も回収は続くでしょう。単純に『表示をチェックすればわかるだろ?』の事例さえあり、なぜいとも簡単に売り場に並んでしまうのか疑問です。いずれにせよ仕入れを担当する『商品本部』はチェックが甘すぎると言わざるを得ません」

 親会社の神戸物産の2023年10月期連結業績は、売上高4615億円 (前期比13.5%増)、営業利益307億円(同10.4%増)といずれも過去最高を更新。「ダイヤモンドチェーンストアオンライン」(24年1月26日付の記事)によれば、23年10月から1年で業務スーパーの店舗数を35店舗増やし、1083店舗になる見通しだという。

 業務スーパーと並んで店舗数を拡大しているディスカウントスーパー「ロピア」でも、不適切な食品表示のまま合計64万パックを販売していたことが報じられているが、「小売の中でも一番勢いのあるロピアと業務スーパーは、成長(拡大)の速度が早過ぎて、一番大切な商品管理が追いついていない」と指摘する。

業務スーパーから再発防止策も公表されていない

 また、消費者への情報告知の面も問題があるという。商品回収・返金方法のお知らせは同社公式サイトで発信しているが、これも「安易」なようだ。

「フランチャイズ店が多いため難しいかも知れないが、折込チラシ等で情報を緊急発信するべきでは。安易に店内やホームページで告知→回収→返金を繰り返していては危機感がなさすぎると言わざるを得ない。そもそも、もし大きな健康被害が発生した場合、どのような対応をするのか? 現時点で『再発防止策』も公表されていません。何か事故があったとき、再発防止策が機能していないことが露呈し、大問題になるのは明らかです」

 食品は健康に直結する。小林製薬の紅麹サプリの事件が教えてくれたのは、その当然の事実だ。業務スーパーの「冷凍アスパラガス(ホール)」は、その紅麹サプリと同じ「回収命令」品にあたる。それが昨年の回収に続いて今年も再び回収命令となり、もはや年中行事化している同社の問題は根深いといえるだろう。

 最後に小林氏に消費者ができることを聞いた。

「店のファンは『この店で売っているんだから大丈夫!』と信じて、買物カゴに入れていますが、安い商品にはそれなりの理由もある。日本で認められていない成分の混入などです。しかし、表示への意識を高めれば、違反をゼロにすることはできなくても、食の安全に対する会社の意識はレベル格段に上がるはずです」

 これからも、安くておいしい食品を健康な体で食べ続けるためには、私たちの意識も変える必要がありそうだ。

業務スーパー、2024年の回収品目一覧(消費者庁リコール情報サイトより)

・神戸物産「冷凍 鶏もも肉唐揚げ」 – 返金/回収
・神戸物産「冷凍アスパラガス(ホール)」 – 回収命令
・神戸物産「トロサーモン(ハラス切り落とし)」 – 返金/回収
・神戸物産「金の鶏だし」 – 返金/回収
・神戸物産「マイカップDEヌードル(カレー、チキン、ビーフ)」 – 返金/回収
・神戸物産「オーツクランチ(ココア味)」 – 返金/回収

小林久(元スーパーやまと社長)

小林久(元スーパーやまと社長)

1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

【スーパーやまと元社長 小林久ホームページ | こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~】

最終更新:2024/09/16 15:00
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