[再掲]ドラマ俳優クロニクル

ドラマ評論家が解説、『GTO』が描いた90年代のテーマと鬼塚役・反町隆史の俳優像とは?

2024/04/01 17:00
成馬零一(ライター)
Getty Imagesより

 2024年4月1日午後9時から、平成の伝説的ドラマ『GTO』(フジテレビ系)が26年ぶりに特別ドラマ『GTOリバイバル』として復活する。

 『GTO』(1998年)は、元暴走族の高校教師・鬼塚英吉(反町隆史)が、生徒たちや学校が抱える問題に体当たりでぶつかっていく姿を描いた学園ドラマ。今回の復活にあたり、反町のほか、生徒役の池内博之、山崎裕太、窪塚洋介、小栗旬、鬼塚の友人役の藤木直人、そして鬼塚の同僚教師でCAに転身したヒロイン・冬月あずさ役の松嶋菜々子が再集結。往年のファンは放送前から大盛り上がりしているようだ。

 そんな『GTO』は、一体どんな作品だったのか。またの反町は同作品を通じてどのような俳優像を確立したのか――ドラマ評論家・成馬零一氏のレビュー記事を再掲する。

※2021年11月25日の記事に追記・更新しています
※記事内のデータは公開当時のものです

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。


 『相棒』(テレビ朝日系)のSeason20がスタートした。本作は、特命係という窓際部署に所属する頭のキレる刑事・杉下右京(水谷豊)と相棒となる刑事の掛け合いが魅力の人気刑事ドラマだが、現在、4代目相棒の冠城亘を演じているのが反町隆史である。

 冠城は法務省から出向してきたキャリア官僚出身の刑事で、普段は飄々としているが、利用できるものはなんでも利用する合理主義者。しかし、奥底には強い正義感を抱えている。そんな冠城を、反町は落ち着いたトーンで好演しているのだが、エリート官僚出身の刑事を反町が演じると知った時は意外だった。筆者にとって反町はエリートとは真逆の存在で、『GTO』(フジテレビ系)の破天荒なヤンキー教師・鬼塚英吉だったからだ。

 「週刊少年マガジン」(講談社)で藤沢とおるが連載していた同名漫画を1998年にドラマ化した本作は、武蔵野聖林学苑の非常勤として採用された鬼塚が主人公。彼が受け持つこととなった2年4組は問題児ばかり集まったクラスで、過去の担任は生徒から陰湿なイジメを受けて全員辞めていた。

 鬼塚も生徒からの嫌がらせを受けて退職に追い込まれそうになるのだが、元不良で暴走族のリーダーだったため、生徒たちの嫌がらせを飄々とかわし、やがて信頼を獲得していく。正面からクソ真面目に説教するのではなく、一緒に悪ノリして学園生活を楽しみながら、生徒たちの心に深く寄り添っていく鬼塚は、今までの学園ドラマにはいない新しい教師だった。

目次

・『GTO』が描いたシリアスな90年代のテーマ
・『GTO』最大の見どころ
・『GTO』を経た俳優・反町隆史


援助交際、イジメ、キレる若者……『GTO』が描いたシリアスな90年代のテーマ

 脚本は、後に『女王の教室』や『家政婦のミタ』(いずれも日本テレビ系)を手掛ける遊川和彦が担当。遊川は80年代後半からテレビドラマを執筆する脚本家で、『オヨビでない奴!』や『予備校ブギ』(いずれもTBS系)といったコメディテイストのドラマを得意とする脚本家だった。しかし、90年代に入るとバブル崩壊以降の殺伐とした日本の世相に呼応する形で作風も変化。『真昼の月』(同)や『魔女の条件』(同)といったシリアスなドラマを手掛けるようになっていく。

 この『GTO』も、モチーフはとてもシリアスで重たいものだ。登場する高校生たちには90年代に問題になっていた援助交際(少女売春)を行う女子高生や、一見、真面目な優等生に見えるが影で陰湿なイジメに加担する生徒が登場。ナイフを持って暴れる生徒は“キレる若者”のイメージを反映させており、彼らと大人は「どう向き合うべきか?」というテーマが打ち出されていた。

 また、『GTO』は遊川が手掛けた数少ない原作モノのドラマだが、80年代のコメディ作家としての遊川と、90年代以降のハードな作風の遊川の2つの要素が混ざっていることが、今見ると興味深い。『女王の教室』で展開された、普通の人々の中に1人だけ物理法則を無視した漫画のキャラクターのような存在がいて、トリックスターとして周囲を翻弄するという作劇手法を、遊川が初めて自覚的に用いたのである。

『GTO』最大の見どころは、生徒への説教ではなく……

 原作が漫画ということを差し引いても鬼塚の行動は超人的で、親子のわだかまりを解消するために生徒の家に乗り込んで、突然、部屋の壁を破壊したり、屋上から飛び降りた生徒をダイビングキャッチで受け止めるといった常識はずれの行動を見せる。

 鬼塚の超人的な振る舞いは本作の魅力であると同時に限界でもあり、「所詮はファンタジーだ」と思わないでもない。ただ、このあたりの描写はおそらく確信犯で、遊川たち製作者の目線は、別の場所にあったのではないかと思う。

 たとえば、スチュワーデス(キャビンアテンダント)の夢に敗れて、つなぎの仕事として教師を選んだ冬月あずさ(松嶋菜々子)の中途半端さに対して鬼塚が説教する場面は、生徒と向き合う時以上に真に迫っていた。おそらく遊川たち作り手は、冬月と同世代の大人の視聴者にこそメッセージを送りたかったのではないかと思う。保身に走るあまり生徒と向き合えない冬月たち教師が、鬼塚と出会ったことで自身の仕事に情熱を見出していく姿こそが、本作最大の見どころである。

 なお、冬月を演じた松嶋菜々子と反町は2001年に結婚している。当時は驚いたが、2人の楽しい掛け合いを見返すと「そりゃあ、お互い好きになるよなぁ」と納得する。

「ジャニーズの反町」は『GTO』を経て「俳優の反町」に

 元々、反町はジャニーズ事務所に所属して本名の野口隆史で活動していた。1994年に研音に移籍して以降は芸名の反町隆史として活動するようになり、同年に放送されたドラマ『毎度、ゴメンなさぁい』で俳優デビュー。その後は『未成年』(いずれもTBS系)や『竜馬におまかせ!』(日本テレビ系)といったドラマに出演し、97年の『バージンロード』と『ビーチボーイズ』(いずれもフジテレビ系)で主演を務めるようになる。

 当時の反町は、男らしさを全面に打ち出した体育会系の肉体派でありながら、クールで飄々としていて暑苦しさがないという、絶妙なバランスの青年を演じることが多かった。 『GTO』はその集大成で、“俳優・反町隆史”の名を不動のものとしたドラマである。『相棒』の冠城亘に至る俳優・反町のイメージは、鬼塚英吉を演じたことで完成したといっていいだろう。

 『GTO』から23年がたち、当時20代後半の青年だった反町も47歳となり、落ち着いた中年男性を演じるようになった。『相棒』の冠城役はすでに6年目で歴代最長の“相棒”となっているのは、役と本人の相性が良かったのだろう。演じる役は元不良の教師から元キャリア官僚の刑事へと変わったが、鬼塚で確立した「飄々とした軽い佇まいの奥に熱い正義感を抱えている男」というイメージは、今も変わらない。

※2021年11月25日の記事に追記・更新

成馬零一(ライター)

成馬零一(ライター)

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020(PLANETS)がある。

最終更新:2024/04/01 21:33
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