マツコ、不快感あらわ! 「ムダをなくしない」若者のタイパ至上主義に思うこと
私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「なんだそれ!」マツコ・デラックス
『5時に夢中!』(3月25日、TOKYO MX)
目次
・マツコ「タイパ」コメントのうまさ
・ムダを論じることはムダ?
・成田悠輔氏の「集団自決」発言を追究すると……
マツコ・デラックス、「タイパ」に対するコメントのうまさ
3月25日放送の『5時に夢中!』(TOKYO MX)で、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する若者は、先輩や上司に「お疲れさまです」などのあいさつをしないことがあるという話題を取り上げていた。うっかりあいさつをして、先輩や上司に話しかけられたら、帰宅が遅れてしまう。それは彼らにとって「タイパが悪い」ことに当たるらしい。
月曜レギュラーのマツコ・デラックスは「なんだそれ!」と不快感をあらわにしていた。番組MCの大島由香里が、最近の若者は時間を奪われることを嫌うため、SNSでも短い動画が好まれるようになってきていると解説すると、マツコは「でも、それで意味もない短い動画を何時間も見ているんだったら、それってタイパ(がいい)っていうの?」と、時間(タイム)を重視している一方、効果(パフォーマンス)を軽んじているおかしさを指摘してみせた。
マツコってうまいなぁと思う。
人気者のマツコは、キー局でも多くの番組を持っている。かつて『マツコの知らない世界』(TBS系)でも、若者がタイパを重視するために、映画や音楽を2倍速で見る(聞く)ことがあるという話題になったが、その時、マツコは「意味がわからない」程度のコメントに留め、「なんだそれ!」という強い批判の言葉は使わなかった。それは視聴者層の違いを意識しての行動ではないだろうか。
『マツコの知らない世界』はキー局、しかもゴールデンタイムの放送なので、老若男女が見ていると予想される。冠番組で視聴率を取るためには、すべての年齢層にまんべんなく好かれる必要があるが、若者に対しての嫌悪感をあらわにすると、彼らにそっぽを向かれる可能性がある。
しかし、『5時に夢中!』を放送しているTOKYO MXは東京都のローカル局であり、番組終了後にTVerなどで配信されてもいない。ということは、視聴者はわざわざその時間にテレビの前に座ってチャンネルを合わせる、過激な論調を良しとする同番組のコアなファンと見ることができる。平日夕方という放送時間から考えても、視聴者は若者より年配の人が多いと思われる。
こうした点を踏まえると、マツコの「なんだそれ!」発言は、番組視聴者にとって痛快であり、彼らを喜ばせたのではないだろうか。視聴者層を意識してコメントできるマツコは、やはり「うまい」と感じるのだ。
バカリズムの話に考える、ムダを論じることのムダさ
一方で、マツコのタイパ批判は「うまい」だけではなく、いま必要とされるものだと思う。
タイパに限らず、「〇〇がムダ」という考え方をする人はいる。例えば、2月25日放送の『ドーナツトーク』(TBS系)で「なくしたいムダな時間」という話題になったとき、カンニング竹山が「古文が人生に一度も役立っていない」とコメントし、SNSで古典の授業は必要か不要か論争が起きたことは記憶に新しい。
テレビやSNSでは極端な2択をめぐる論争が好まれ、バズる傾向があるので、番組としてはしてやったりだろう。私自身も大学受験に必要だから仕方なく勉強したものの、古文や漢文ってなんの役に立つのか疑問に思ったことはあるので、「〇〇がムダ」論争が盛り上がるのは、理解できる。けれど、年齢が上がって思うのは、ムダを論じることのムダさである。
せっかちな人は、時間をムダにしたくないという。2月22日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に出演したバカリズムは、極度のせっかちのため、ウーバーイーツの配達員がインターホンを鳴らす前から、ドアの前に立っているエピソードを共演者に暴露されていた。
バカリズムのそれは素早く商品を手にできるし、配達員もスムーズに商品を渡せるとあって、「せっかちが成功している」ケースといえるが、せっかちゆえにやることが雑になってしまい、二度手間になることもあると話していた。時間を節約するためのせっかちで、手間が増えては本末転倒だろう。こうやって考えてみると、せっかちという気質そのものだってムダといえるわけだ。
成田悠輔氏の「集団自決」発言、ムダを追究するとどうなる?
「〇〇がムダ」といえば、経済学者・成田悠輔氏による「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という発言は、突き詰めれば「老人はムダな存在だ」といっているようなものだろう。当然、この発言は問題視され、海外のメディアでも取り上げられた。成田氏はキリンビールの缶チューハイ「氷結無糖」のウェブ広告に出演していたが、この発言が問題視され抗議が殺到。成田氏の広告は削除された。
少子高齢化で老人を支える若者世代の負担が大きくなっていることから、Yahoo!ニュースのコメント欄では、成田氏の発言を支持する人も少なからずいた。冷静に考えれば、若者の負担を減らすのは政治の仕事であり、老人には何の責任もないことはわかりそうなものだが、誰かをターゲットにして「あいつはムダ」と指を差さないと気が済まないくらい、この国の人々は今、すさまじい閉塞感を感じているのかもしれない。
もし「老人はムダ」という考えがまかり通るなら、世の中は大変なことになるだろう。病気や障害などの事情で働けない人は納税していないという意味でムダ、高額納税者であっても、リタイアしたらムダな存在になる。また、出産していない、もしくは出産する年齢を過ぎている女性や独身者は少子化を食い止められないという意味でムダとなる。
このように、障害者や同性愛者など、一方的に「ムダ」とみなした存在を虐殺したのが、ナチス・ドイツである。しかし、ムダを追求していくと、世の中の人はほとんどがムダなのではないか。自然界から見れば、環境破壊を繰り返す人類だってムダな存在で、この星からいなくなっても何の不都合はないだろう。
マツコがテレビに出始めた頃は毒舌がもてはやされたが、時代が変わり、今はお説教めいたことを言うことが難しくなっている。2022年放送の『マツコ&有吉かりそめ天国』(テレビ朝日系)では、「若い人に対して何か言うのは、本当に極力避けている」と時代の変化を意識しているような発言をしていたし、実際、近年は若者を否定するような発言はしていないと思う。
けれど、やはり、ここぞというときは全国ネットでもガツンと言ってほしい。タイパ至上主義の若者の「ムダをなくしたい」という思いは、危険をはらんでいるから。「うまい」だけではないマツコのコメントを聞きたい人は、私だけではないはずだ。