闇金に連れてこられたAV女優――逮捕された社長の借金を「その日のうちに」清算できたワケ
こんにちは、元闇金事務員、自称「闇金おばさん」のるり子です。今回は前回登場した「名古屋のオマタ」のその後についてお話ししたいと思います。
目次
・「名古屋のオマタ」からの電話
・融資希望者はAV制作会社社長
・連帯保証人として来社した妖艶な女優
・社長とオマタは逮捕。残された女優の行動
「名古屋のオマタでございます」闇金にかかってきた電話
「お世話になります。伊東部長様は、お手すきでしょうか?」
「失礼ですが?」
「名古屋のオマタと申します」
ブレイズインターナショナルの決済から2カ月ほど経過した頃、ヤクザを偽っていた「名古屋のオマタさん」から伊東部長宛てに電話がかかってきました。以前に電話をかけてきたときのダミ声とは違って、高い裏声の営業ボイスを駆使して極めて丁重に話すので、まるで別人のようです。
「伊東部長、名古屋のオマタさんからお電話です」
「オマタって、あの語り屋の? いまさら、なんの用だろう」
少し警戒した様子の伊東部長が、ビジネスフォンのスピーカーをオンにすると、テレアポ営業に励んでいた営業社員全員が受話器を置いて、部長の周囲を取り囲みます。伊東部長が電話口に出た途端、媚を売るような口調でオマタさんが言いました。
「伊東部長様、ご無沙汰しております。名古屋のオマタでございます。その節は、大変お世話になりました」
「はあ。で、ご用件は?」
「実は、伊東部長様に、折り入ってお願いがございまして……」
融資希望者はAV制作会社社長
その内容を要約すれば、資金需要者がいるので紹介したい。貸付可能であれば、媒介手数料も頂戴したいというものでした。仕事の話なら別だと、申込書や決算書などの必要書類をファックスしてくれるよう話した伊東部長は、オマタさんの過去の振る舞いを気にすることなく商売に徹して接します。
しばらくすると、オマタさんに紹介されたというビデオ制作会社から、申込書類一式がファックスで届きました。申込内容は、連帯保証人なしで200万円。どうやら入金ズレが起きたようで、これより2~3日以内の実行を希望しています。
「るり子さん、信用照会してもらえる?」
信用情報端末を用いて、申込人である社長の照会をかけると、意外にも登録のみのきれいな状態でした。登録のみとは、過去に申し込みを入れて利用しなかった場合や、連帯保証人として照会されていることを示します。普通の業者ならば、喜んで飛びつくようなクリーンな状態といえますが、ウチの会社は正規の中でも高利の業者。ほとんどのお客さんが大手消費者金融業者や商工ローン業者と取引があり、それらから借り入れできなくなった人たちが辿り着くところに位置する業者のため、情報がきれいなほど逆に怪しまれてしまうのです。
「ちょっとできすぎているな。藤原くん、この件は君に任せるから、借主の事務所までいって現調(現地調査のこと)してきて」
おそらくは、オマタさんと関わるのが、嫌だったのでしょう。営業社員の中でも、目立つほど営業成績の悪い藤原さんに新規顧客を押し付けた伊東部長は、これ以後のオマタさんからの電話は藤原さんにつなぐよう社員全員に指示されました。
「オマタの案件、どうだった?」
「申込人の会社であるVIPエンタテインメントは、アダルトビデオの制作会社でした。代表の鈴森は物件なしですし、車も入れられないというので、保証人の話をしたらオマタの名前が出てきました」
「あいつ、物件持ちか? 名古屋まで取り立てにいくのは、なかなかしんどいぞ」
「オマタも、物件なしです。ほかにいないか聞いたところ『愛人関係にある女優なら(保証人を)やってくれる』と言って紹介されましたが、(資産は)何もないんですよ。なにかあったら風呂屋(ソープ)に沈めるか、サラ金を引き回すしかないですけど、それをおまけにつけて100万出してみますか?」
連帯保証人として来社した妖艶な女優
連帯保証人候補に挙がった2人の信用照会をかけると、大手といわれるサラ金業者すべてに口座を有している状況で、その利用枠は目一杯。この状態で彼らに資金繰りをさせるとなれば、闇金を頼るほかない雰囲気を感じます。しばし考え込んだ伊東部長でしたが、自分では判断できないと、金田社長に直接相談するよう藤原さんに指示されました。
「やってやれ。100万くらい、3人いれば取れるだろう」
その結果を受けた伊東部長は、あまり気乗りしていない様子でしたが、藤原さんに新規契約を取らせてあげたい気持ちもあって口をつぐんでいるようです。貸付金利は、月6分。およそ1カ月後に、小切手返済する約束になっていました。契約当日は、皆さんそろって来社されるそうで、オマタさんがどんな人なのか、少し楽しみに帰宅したことを覚えています。
契約当日。色黒でスキンヘッド、四角いレンズの入った色眼鏡をかけた60代くらいに見えるスーツ姿の痩せた男が、40代と思しき男女2人を伴って来社されました。
「いつもお世話になります。名古屋のオマタでございます。伊東部長様は、いらっしゃいますでしょうか」
債務者と連帯保証人の女優さんを引き連れて来社したオマタさんは、紺の生地にシルバーのストライプが入った派手なスーツに赤いネクタイを締めており、どう見てもその筋の人にしか見えません。色眼鏡の奥にある両目は、病的なほどギラついており、飢えたハイエナのような雰囲気を感じました。愛人関係にあるという代表と女優は、スウェット姿で来社しており、まるで寝起きのような雰囲気でどんよりとしています。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
どうしても決裁権のある立場の人と付き合いたいらしいオマタさんは、受付で伊東部長を呼び出されましたが、担当は藤原さんです。皆さんを応接室にお通しした後、そのことを伊東部長に伝えると、契約に同席すると言われます。
「おお、伊東部長様でいらっしゃいますか! お目に書かれて光栄です。名古屋のオマタでございます。先日は、大変失礼いたしました」
お茶を出しに行くと、気をつけをしたオマタさんが、後頭部が見えるほど頭を下げて伊東部長にあいさつをしていました。
「この度は助けていただき、本当にありがとうございます。しっかりと返させますので、今後ともよろしくお願いいたします」
「VIP社さんとは、どんな関係なんですか?」
「実は私、スカウトをやっていましてね。鈴森は、私のところから独立した男なんです。おい、伊東部長様に作品を見てもらえ」
どうやら自社の作品を持参されたようで、数本のビデオテープが献上されました。それはなんと連帯保証人の女性が主演を務める作品で、口にすることができないほど、いやらしいタイトルがつけられています。目を逸らす伊東部長とは違って、興味津々の藤原さんに、そのすべてが引き渡されました。
社長は児童福祉法違反、オマタは覚醒剤取締法違反で逮捕。残された女優の行動
「オマタさんは、どんなスカウトをされているんですか?」
「名古屋といえば、ファッションヘルスでしょう? なかにはAV女優になりたい子もいるので、そうした場合は鈴森のところに紹介しています。お好きでしたら、とびきりの子をご用意いたしますので、いつでもお声かけください」
滞りなく契約は終わり、エレベーターが来るまでの間、扉の前で雑談をしていると、到着したエレベーターから佐藤さんが出てきました。オマタさんの鋭い視線と、連帯保証人を務めた女優さんの媚びを売るような目つきが、佐藤さんに集中します。
「こちらの方、いい男ですね。もしスカウトをやらせたら、相当稼ぐと思いますよ」
「そうですか。男優には向いてない?」
「それは無理ですね。AVは、男優がブサイクだからこそ、夢を与えられるんです」
その後、返済と再貸付を繰り返し、3カ月ほど経過したある日。VIP社の鈴森社長、オマタさんの代理人を名乗る弁護士から、介入通知が届きました。その内容は、鈴森社長が児童福祉法違反、オマタさんは覚醒剤取締法違反で逮捕されたことを告げるもので、これ以後の返済はできないと一方的に通告してきています。
「顔つきを見て、もしやと思ってはいたけど、オマタの野郎、ネタ食ってやがったんだな。それより児童福祉法違反って、なんだ?」
「保証人の女に聞いたところ、17歳の子をビデオに出しちゃったみたいです」
「あの女、連絡つくのか。カネは返せるって?」
「社長がパクられて、どうにもならないみたいです。ちょっとずつ返すと話していましたが、どうしましょう?」
一括返済させるべく、佐藤さんと藤原さんのコンビが女のところに出向くと、何をどうしたのか、その日のうちに全額回収してきました。
「あの女、カネ持っていたのね。きれいに取れて、よかったじゃん」
「いえ……。部長、ちょっとすみません」
ひそひそと話す3人の様子は、普段と違っておかしく、特に藤原さんが恥ずかしそうにぺこぺこしていたことが思い出されます。
後日わかったことですが、自分と付き合うことを条件に藤原さんがお金を出して助けたそうで、それからしばらくの間、2人は同居していたと聞きました。どうやらいただいたビデオを見て、自分の女にしたいと思ったようです。この件以降、オマタさんの姿を見ることは一度もありませんでした。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)