闇金の債務者が“ヤクザ”投入? 電話をかけてきた「名古屋のオマタ」の正体
先方の電話番号を確認して電話を切った伊東部長に、傍らで通話を聞いていた強面営業社員の藤原さんが言いました。
「部長、〇×会なら、自分の先輩が本部にいます。聞いてみましょうか?」
「そうか、頼む。こういう時、いつも君は頼りになるよな」
どこか得意気な表情で先輩に連絡を入れた藤原さんが、名古屋の〇×会本部にオマタという人物がいるかと在籍を確認したところ、思いがけない回答が飛び出します。
「オマタという奴は、組織に一人もいないそうです。語り屋(関係ないのに組織の名前を勝手に使う人のこと)なら連れて来てほしいといわれました。どうしましょう?」
「面白そうだな。呼び出して、会わせてみるか」
「先輩、かなり怒っていらしたから、きつく締められちゃうと思いますよ。めちゃくちゃな人なんで、なにするかわからないです」
「そうか。殺されたりしたら面倒だから、とりあえず本人に伝えてみよう」
あらためて名古屋のオマタさんに電話をかけると、社内にいる全員が伊東部長の周囲に集まって、その通話に聞き耳を立てます。電話の前で待ち構えていたのか、1回目のコールが鳴り終わらないうちに応答されると、伊東部長が開口一番に言いました。
「あらためて確認なんですけど、オマタさん、〇×会の方で間違いないですよね?」
「おお、なんか文句あるんか?」
「こちらも本部の方と付き合いがありましてね。確認させていただいたところ、オマタという者はいない、ウチの看板を使っているなら連れて来てくれと言われてしまいまして」
「え? 本部にお知り合いがおられるんですか? 誤解を招くようなことを言いまして、申し訳ございません。看板を使うなんて、そんなつもりじゃないんです」
態度一転、ひどく狼狽したオマタさんは、声のトーンを上げて謝罪の言葉を述べました。その声は震えており、続けて現在の居場所を尋ねられるも、「勘弁してください」と繰り返すばかりです。
「もう車は好きにしていただいて構いませんので、先程のことはご放念ください。申し訳ありませんでした!」
結局、逃げるように電話を切られて、本件は終了。その後、荻野社長や名古屋のオマタさんから連絡が入ることもなく、担保の真っ赤なBMWは金田社長の奥様が乗ることになりました。客の整備工場で点検させ、社員の手により入念な洗車が施された後、極めて万全な状態で引き渡された次第です。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)