コラム
仁科友里「女のための有名人深読み週報」

立川志らく、松本人志擁護に見る「恩」という言葉の問題点と権威バイアスの強さ

2024/01/11 21:00
仁科友里(ライター)

 志らくのスタンスにはもう一つ気になることがある。彼はジャニー氏の性加害問題の際、これまで沈黙していたのに、急に旧ジャニーズを叩きだしたメディアの批判こそしたものの、被害者に「警察に行け」などとは言っていなかった。

 例えば、国民栄誉賞を受けた作曲家の故・服部良一氏の次男・吉次氏も夕刊紙で、自分も被害者であると名乗りを上げたが、小学生の頃――つまり70年も前の出来事で証拠となるものは何もない。しかも彼は旧ジャニーズに所属していたわけではない。松本の性加害問題で、“被害女性にはなんらかの目論見があるのでは”と言っていると受け止められてもおかしくない物言いをした志らくであれば、吉次氏にも「警察に行け」と言いそうなものだが、言わないのはなぜだろうか。

 それは04年にジャニー氏の性加害を最高裁が認めているから、そして、吉次氏が国民栄誉賞を受賞した服部良一氏の子息だからではないか。最高裁や国民栄誉賞受賞者の子どもといった権威のある機関、人の言うことを無条件に信じてしまう――それを心理学では「権威バイアス」というが、志らくはそのバイアスが強すぎるように思うのだ。

 近藤真彦の「ハイティーン・ブギ」など、旧ジャニーズ事務所のタレントに多くの楽曲を提供してきた山下達郎は、ジャニー氏の性加害を「何も知らない」と述べ、「私の人生にとって一番大切なことは、ご縁とご恩」といって、作曲家として名を成すチャンスをくれたジャニー氏への思慕の念は消えていないといったような発言をしていた。

 つまり山下は、人がなんと言おうと、自分にとってジャニー氏はかけがえのない人だったと言っているわけだ。この意見を好ましくないと思う人もいるだろうが、「恩を忘れない」という意味では、筋が通っている。

 一方の志らくはどうか。「警察に捕まって裁判になり有罪となったら軽蔑はするが、週刊誌に好き放題書かれただけの現状では、私は松本人志を信じます」と投稿していたるが、これは「役所が認めない限り、信じる」という「条件付きの恩、信頼」といえるだろう。そんな志らくの筋の通らなさが気になるとともに、権威があるというだけで、無条件に信じてしまうことの怖さを感じてしまう。

 03年に発覚した、早稲田大学のイベントサークル「スーパーフリー」の集団強制性交事件を覚えている人も多いと思う。ディスコでイベントを行い、女性を泥酔させて集団で性暴行する。その所業は「マワシ」と呼ばれ、メンバーはそれをスムーズに行うために、役割分担がなされていたと週刊誌で読んだ。

 彼らは、お酒を飲み慣れていない、知り合いが少ないので情報が入ってこない、親などにすぐ相談できないという地方出身の新入生――つまり「弱い立場」の女子をターゲットにしていたという。松本が後輩芸人に女性を集めさせ、性加害をしたと決めつけるつもりはないが、もし記事内容が事実なら、なぜわざわざ一般女性を選んだのか気にかかる。

 性被害というと、すぐに「ついていった女が悪い、金目当て」と言い出す人が多数現れるが、結局のところ“弱い者いじめ”なのだと思う。男尊女卑が強く、志らくのように権威バイアスの強い人が多い日本では、性加害はなくならないように思えてならない。


仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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最終更新:2024/01/11 21:00
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