“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験、偏差値35の私立中から慶應大学合格も……「ゆる受験」成功の女性が後悔するワケ

2024/01/13 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

小6夏から中学受験、偏差値35の女子校から慶應大学に合格したけれど……

 梨々花さんの両親は、彼女いわく「公立高校からの四流私大出身」。親戚たちにも中学受験経験者はいない家庭環境だったという。

「受験塾に行き出したのは私が小学6年生の夏。突然、親に塾に突っ込まれたんです。多分、クラスが学級崩壊になったから、地元の公立中を避け、私立中に進学させようと思ったんでしょう。国語と算数の2科受験でしたが、偏差値はずっと30台だったので、上位校はとても無理。結局、制服が可愛いという理由で偏差値が35の〇女子学園に入りました」

 現在、〇女子学園は共学校で、まったく別の学校になっているのだが、当時はAO入試をはじめとする大学の推薦入試に熱心で、“入口”偏差値に比べて、“出口”である大学合格実績が良いことで知られていた。

 推薦入試の中でも指定校推薦や公募推薦入試は、成績(評定)の基準があり、学校が「保証した生徒」であることが普通。しかし、梨々花さんが在学していた頃のAO入試は学業成績基準を設けない大学が多かった。AO入試は合格に導く経験豊富な指導者のもとで計画的に進めれば、たとえ低偏差値と呼ばれる高校からでも、結果を出しやすい受験方法とされたため、〇女子学園のように、AO入試で難関大学に生徒を入れることに尽力していた学校もあったのだ。

「私自身はAO狙いで中高時代を過ごしていたわけではないのですが、ボランティア部を立ち上げて活動している様子をテレビで放映される機会があったり、担任の先生の指導で、文芸コンクールに入賞したこともあって、『AOに挑戦すべき』というような流れになった次第です。多分、大学側に提出する調査書も“お手盛り”的に上乗せされていたと思います」


 充実した中高時代を過ごした梨々花さんは見事にAO受験で慶応義塾大学に進学。大学生活ではサークルにバイトにという楽しい毎日を過ごしたという。

 ところが、梨々花さんによると、「人生は甘くない」らしい。彼女は、就活でことごとく不採用になってしまったのだ。

「採用選考の適性検査であるSPIではねられてしまうんです。私は数学も算数も超苦手で、中学受験の時も国語の成績だけで受かったようなもの。〇女子学園は授業も本当にぬるくて、しかも高1から文系志望だったので、数学には触れずにこれました。その報いですかね……SPIで出る損益算や場合の数などは、恥ずかしいほどにお手上げ。やっぱり、キチンと受験勉強をして、中高としっかり勉学に励んできた人には敵わないんだなぁって思いました」

 周りの子たちは簡単に解ける問題なのに、自分はまったく太刀打ちできない――梨々花さんは自信を失くし、面接にすらたどり着けなかった数社の不採用を受けて、就活を断念したそうだ。

「ショックでした。慶應の同期は当然ですが、一般入試であまり名前も聞かないような大学に行った高校時代の友人たちが、就活に成功している様子を見聞きしているうちに家から出られなくなりました。結局、大学は卒業だけはしたんですが、新卒採用は無理で今に至ります」


 現在、梨々花さんはいくつかのバイトを経て、派遣社員として食品工場で働いているというが、最終学歴は周囲に知られないようにしているそうだ。

 もちろん、梨々花さんの就活失敗の原因が「SPIの計算問題」のせいとは限らない。それゆえ、これを、算数をほとんどやらなかったゆる受験の弊害とまでは決め付けられないが、梨々花さんには、きちんと中学受験に向き合ってこなかった結果だという思いがあるようだった。

 ため息をつきながら、梨々花さんはこう漏らす。

「もし、時間を巻き戻せるならば、中学受験を3年間かけて、じっくりやってみたいです。大学の同期を見ていて、やっぱり中学受験で学力を高めてきた人のほうが、いろんな面で結果がいいですから」