北斗晶の「嫁は料理できない」発言に見る、長男との“精神的な距離”のあまりの近さ
私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「うちの嫁は料理ができないんです」北斗晶
『徹子の部屋』(テレビ朝日系、11月10日)
「親しき仲にも礼儀あり」ということわざがある。近しい関係だからといって、遠慮なく接していると揉め事に発展するので、気をつけなくてはいけないという意味だが、礼儀のほかにも大事なものは、精神的な距離ではないだろうか。
心理学では、人間関係を適切に保つために必要なものとして、自己と他者とを区分する“境界線”の存在が指摘される。この“境界線”がもろく、相手との精神的な距離を縮めすぎると――具体的には、友人、恋人、家族に「好きだから、大事な人だから」と密着しすぎると、トラブルが起きやすくなるのだ。
これは車間距離を想像するとよりわかりやすいだろう。同じ速度で走っていても、車間距離を適切に取っていれば事故に至らないが、車間距離がうまく保てないと追突事故を起こしたり、あおり運転と間違われてトラブルに発展したりしてしまうのと同じことだ。
しかし、“境界線”という概念はあまり知られていないため、特に家族の間でも“境界線”が必要と言われたら、「水くさい、家族なのだから、そんなものは必要ない」と思う人は少なくないのではないだろうか。
世界的に見て、女性は男性に比べて境界線を設けるのがヘタで、精神的な距離を縮めすぎる傾向があるといわれている。これは女性が歴史的に“お世話役”を押し付けられてきたこと、夫や子どもの社会的評価が自分の価値とみなされることと関係があるとされるが、元プロレスラーでタレントの北斗晶を見ていると、愛情深さと境界線のもろさは紙一重なのではないかと思わされる。
北斗はもともと愛情深い女性なのだと思う。夫であるレスラー・佐々木健介が所属団体を解雇され、経済的に行き詰まったときも見放さず、料理を作る際には、生ゴミを一切出さないほどの節約に努めた。
その後、夫を罵りまくる「鬼嫁」キャラで注目を集めブレイクし、やがて北斗と佐々木はおしどり夫婦としても知られるようになり、バラエティ番組に欠かせない存在となった。2012年の『24時間テレビ35 愛は地球を救う』(日本テレビ系)では、2人のお子さんを含む家族4人でチャリティマラソンを完走。北斗一家は国民が認める「いい家族」となり、そして北斗には一家を支える愛情深い母親のイメージが定着した。