ジャニーズ事務所は新会社で「やっていけなくなる」? エージェント契約に「期待はない」理由を解説
10月2日に行われたジャニーズ事務所2度目の会見では、10月17日付で事務所を「SMILE-UP.」に変更し、創業者ジャニー喜多川氏(2019年に死去)による性被害者の補償会社になることを発表すると同時に、新会社の設立が明らかになった。タレントと個別にエージェント契約を結ぶ新会社(名称未定)が1カ月以内をめどに設立されるという。
今後、新会社では、希望するタレント個人やグループが設立した事務所とエージェント契約を結ぶことになる。一方で、若手タレントについてはエージェント契約ではなく専属契約を結ぶことも可能だという。
エージェント契約について、東山紀之新社長は「日本の大手芸能プロダクションで、これだけ多くのアーティストと契約することになるエージェント会社が立ち上がるのは初めての試みだと思います」と話していたが、業界最大手のジャニーズ事務所が導入する新しい契約方式はどのような内容なのだろうか? また、そもそもエージェント契約と専属契約の違いとは?
芸能界の契約問題を取り上げた『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)の著者、星野陽平氏にエージェント契約について話を聞いた。
そもそもエージェント契約の考え方は、エンターテインメントの本場アメリカのショービジネスではスタンダードになっているという。
「日本ではタレントのスケジュール管理や仕事の斡旋、身の回りの世話を芸能事務所が担当しますが、アメリカでは仕事の斡旋についてはタレントが契約したエージェントの担当。エージェントは、タレントのキャリア設計を考慮しつつ、オーディション情報を収集し、出演契約やギャラの交渉をタレントの代理人として行います。一方、身の回りの世話をするマネジャーは、タレント自らが雇います」
今後、ジャニーズタレントが新会社とエージェント契約を結んだ場合、マネジャーやヘアメイクといったスタッフはタレント個人が雇う形になると考えられる。では、エージェント会社の取り分はどうなっているのか?
「エージェントの取り分は、タレントのギャラの10〜20%程度。アメリカでは大手エージェント会社のほうがノウハウがあり、業界のコネが太いため有利。タレントは中小エージェンシーから大手エージェンシーに移籍することが多く、エージェンシーの移籍は自由です」
これを踏まえた上で、ジャニーズ事務所の新エージェント会社はどんな業務内容が想定されるのか?
「おそらく、タレントとメディア出演の契約を新事務所が担うという意味でしょう。アメリカのタレントエージェントは、『芸能界に詳しい弁護士みたいな職業』でライセンスが必要です。活動内容もガチガチに法律で規制されています。なので、日本で言っている『エージェント』とは根本的に異なるのでは。詳しくは、公正取引委員会で私が講演したときの資料『独占禁止法をめぐる芸能界の諸問題』か『芸能人はなぜ干されるのか?』の付録のタレントエージェンシー法の条文等をご覧ください」
なお、米国タレントエージェンシー法の条文の中で、ジャニーズ事務所の新会社にも関係がありそうなのが、以下の項目だ。
「エージェントは、タレントに対し、マネジメントやレッスンなど、雇用斡旋以外の名目でサー ビスを直接提供したり、それらのサービスを提供する経済的な利害関係のある者を紹介して対価を得ることが禁じられている」
日本でこの内容がそのまま導入されるわけではないが、ジャニーズ事務所の子会社ジャニーズアイランドは、ジャニーズJr.へ無償のダンスレッスンを行っていることが知られているだけに、今後の対応も気になるところだ。
一方、日本の芸能界におけるエージェント契約の前例は?
「新しい地図もエージェント制を導入したと言っていました。確か、契約業務は弁護士を使っていたのではないかと思います。また、吉本興業も極楽とんぼの加藤浩次とエージェント契約を結んでいました」
会見では、新会社とエージェント契約または専属契約を結んだタレントについて、「一緒にやりたいと意思確認ができているメンバーからは、ファンクラブを通じてお知らせします」と説明。しかし、会見終了から2時間後に元V6の岡田准一が11月末をもって退所すると発表した。岡田はエージェント契約を結ばなかったが、同様の形で事務所を離れるタレントも出てくると思われる。
このような状況において、ジャニーズ事務所の新会社に期待できることはあるだろうか?
「期待はないです。事務所はなくなったほうがいいと思います。『タレントに対して著しい人権侵害をした芸能事務所は淘汰される』という前例を作るべきです。また、ここまでタレントに頭が上がらなくなってしまった芸能事務所は、従来の芸能界の常識で考えるとやっていけなくなるのではないかと思います。つまり、移籍、独立を防げなくなります」
厳しい言葉が並んだが、タレントたちの未来に希望があると信じたい。