闇金おばさん、初の取り立て現場で見た「マイメロディと不動明王」――思わぬ一言で修羅場回避
「お世辞だなんて、滅相もありません。あまりに見事なお不動様だから、つい……」
「ほー。あんた、若いのにたいした姉ちゃんやの。お宅らは、ここのおばはんに、いくら貸してんねや?」
どこからどう見てもヤクザにしか見えない風貌をしておられますが、もともとは人懐っこい方なのでしょう。刺青のことを話題にしたのが、よほどうれしかったようで、持っていた出刃包丁を軒先に置くと、柔和な表情で話しかけてきました。ここぞとばかりに、佐藤さんが男に尋ねます。
「200万くらいの話なんですけど、お付き合いも長くさせていただいているので、状況が知りたくてお訪ねました。祥子さん、どうしちゃったんですか?」
「いろいろとしでかしていたことがめくれて逃げてるみたいよ。オレらが入る前には、警察も来ていたみたいだから、そのうちにパクられるんじゃねえかな」
結局、祥子さんの行方は、わからないまま。状況を共有するべく、伊東部長に連絡を入れると、どうやら全額回収の目途がついたらしく事務所に戻るよう指示されました。
事務所に戻ると、すでに決済は完了しており、車の返却まで終わっています。伊東部長の回収力に感心しつつ、あらためて佐藤さんと2人で報告に伺うと、祥子さんの状況が明らかになりました。
「祥子さん、いま〇×警察署の留置場にいるよ。先月に亡くなったお父さんの保険金を着服した上、小切手も勝手に持ち出して金融屋に入れていたんだってさ。それを急に回されて不渡が出ちゃったんだと」
「あの女、なかなかやりますね。で、矢越さんは、どうやっておカネ作ったんですか?」
「車は手放したくないし、オレに迷惑をかけるわけにもいかないからって、商売道具のカメラを売って金を作ってくれたんだ。あの人、いい人だよね。だから騙されちゃったんだろうけどさ。いくらやられているかわからないから、これからが大変だよ」
数日後、新聞の三面記事に掲載された祥子容疑者の顔写真を目にした私は、居並ぶマイメロディの置物と出刃包丁を持った男の不動明王の刺青を思い出して、どうにも複雑な気持ちになりました。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)