台風7号、タワマンの怖い「災害リスク」は? 過去には武蔵小杉で「トイレ使用禁止」の悲劇も
タワマンの一番の魅力は、やはり「高層ゆえに素晴らしい景観と共に生活できる」という点だろう。しかし、榊氏は「『高い』というポジションにおけるリスクはある」と指摘する。
「2016年、カナダ・トロント市のヨーク地区救急サービスの隊員たちが、一刻を争う『心肺停止』を起こしたマンション住民の階数別の“生存率”を調査した際、25階以上は0%だったといいます。高いというのは、つまりそれだけ移動距離があり、移動時間もかかる。移動手段はエレベーターしかなく、それは電力によって支えられている……そう考えると、『景色が良いから』だけでタワマンを選ぶのは、リスキーだと感じます」
確かに今回、停電によってエレベーターが使えなくなり、一部報道では「40階近くまで階段を上り下りする住民もいる」と伝えられ、ネット上を驚かせていた。
「東日本大震災のとき、東京電力福島第一原発事故などの影響で、計画停電が実施されましたが、せいぜい3時間程度だったので、それくらいなら部屋の中でじっとしていれば問題ありませんでした。しかし、いざ災害で停電になったら、3~4日間、電気が使えない生活を強いられることもありますし、9月に台風15号が直撃した千葉では、一部地域で、実に1カ月も停電が続きました。このような状況に陥った場合、とてもじゃないけれどタワマンには住めないと思いますよ」
また、タワマンは「戸数が多い」という点も、災害時のリスクになり得るという。
「例えば地震が発生し、停電が起こってエレベーターが停止した場合、避難経路は非常階段しかありません。そこに一斉に住民が集まったら大渋滞になりますし、さらに『我先に』と慌てる人が続出すると、将棋倒しになる危険性もあるのです」
さらに、武蔵小杉の一件では、「トイレが使えない」という点も大きな話題となった。榊氏いわく「停電により、下水処理にも不具合が生じ、『トイレを流すな』という命令が出ている……ということでは」と述べる。
「トイレが使えないなんて、現代の人にとってはあり得ない事態でしょう。簡易式トイレが配布されたものの、用を足した後、『手が洗えない』という問題も出てきますし、そのストレスも大きいはず。総じて、タワマンの災害時における脆弱性は、『電気に頼り切っている』という点なのではないでしょうか」
なお、タワマン住民が災害時、地域の避難所に身を寄せようとすると、敬遠されてしまうケースもあると付け加える榊氏。というのも、タワマンの建築ラッシュとなっている中央区・勝どきは、人口が激増しているにもかかわらず、避難所数が少ないそう。榊氏が、区役所にその点について「どうお考えですか?」と質問したところ、「マンションにお住まいの方は、基本的にマンション内で自活をしていただくことを考えています」といった回答を得たという。
「避難所というのは、基本的に自分の住まいにいると命に危険が及ぶという人が避難する場所なのです。そう考えると、確かにタワマンにいても命に別状はありません。けれども、生活面に重大な不具合が生じる可能性があるということなのです。実際に武蔵小杉のタワマンの住民は、大きな荷物を持って、別の場所に避難している方も多いと聞きます」