コラム
仁科友里「女のための有名人深読み週報」

マツコ・デラックスの「出身地イジリ」に乗らなかった梨花が“理解していたこと”とは?

2023/08/03 21:00
仁科友里(ライター)

 しかし、20年代に入った頃から「人を傷つけない笑い」が支持され、あらゆるハラスメントに対して人々が敏感になっている現在、この「出身地イジリ」や「地域イジリ」は、今までのように笑えないのではないかと思う。

 マツコの出演番組での発言から推察するに、おそらく現在は 、家賃の高い都心エリアに住んでいるのだろう。もちろんそれは個人の自由だし、有名人としてプライバシーやセキュリティーを考えれば、そういった地区に住むのは当然だ。

 しかし、現在、高級住宅街に住むマツコが、執拗にそうでない土地をイジると、そこに住んでいる人が「バカにされた」と感じる可能性がないとは限らない。高級住宅街に住んでいないマツコが、地価の安いエリアをイジるのなら「どっちもどっち」「アンタに言われたくないよ」で笑いになるが、今のマツコがこれをやると、やはりそこに住んでいる人は面白くないだろう。

 梨花がマツコの曳舟イジリに乗っからなかったのは、編集でカットされた可能性も否定できないものの、2000年代のバラエティノリで便乗すると、曳舟の人を貶める結果にしかならないことをわかっていたからではないか。

 出身地というのは、外見と同じように自分の意志ではどうにもできないし、経済的基盤や階級意識と無関係とはいえないので、実はかなりセンシティブな個人情報だろう。マツコは格差社会をもろともせず、芸能界で大成功を収め、自分の力で高級住宅街に住めるようになったが、この世には、そう願ってもできない人がほとんど。やっぱり「出身地イジリ」「地域イジリ」 は時代に合わない気がする。

 マツコがテレビに出だした頃、「この人は売れる!」と思った人は多いだろう。私もその一人だが、マツコは予想をはるかに超えてビッグになった。一昔前の芸能界なら、売れている人は何をやっても許されたかもしれないけれど、今は売れている人ほど 慎ましく振る舞うことを要求される時代だと思う。

 スターにあれこれ望んでしまうのは、大衆の愚かしさかもしれないが、“足元”にお気をつけいただきたいものだ。



仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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最終更新:2023/08/03 21:00
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