大女優の息子がグラビアアイドルを借金のカタに! 闇金事務員が見た地獄の“入り口”
「社長。佐々木の紹介で出した田中社長、電話が止まっていて連絡が取れません。債権は100万です」
「佐々木も連絡取れないか?」
「はい。全然電話に出ないので、保証人の女に連絡したところ、2日前から社長と連絡が取れず心配していると。佐々木とは連絡を取る間柄になく、なにもわからないそうです」
「飛んだな。佐藤と藤原は、女のところに行ってこい。小田は、債務者(田中社長のこと)の事務所と自宅の確認だ。伊東は事務所に残って、不動産登記を進めるように。俺は、佐々木に連絡を入れてみる」
社長の指示をホワイトボードに書き出し、保管庫から書類一式を取り出した伊東部長は、全員が出払ったところで言いました。
「佐々木みたいな質の悪いブローカーを使うと、ろくなことにならないんだよな。言わんこっちゃないよ」
しばらくすると、連帯保証人のところに向かった藤原さんから連絡が入り、進捗状況が報告されます。
「本人と会えて話ができました。まだ接触はないみたいですけど、ウチのほかに3社ほど名前を書いちゃっている(他社でも連帯保証人になっているという意味)ようなので、とりあえず車を預かる方向で話しています」
「一番でよかったじゃない。車は何? 評価、足りそう?」
「はい、とかし(ローン中などで名義変更ができない車のこと。金融車ともいう)ですけどポルシェなので、大丈夫かと」
それからまもなく、ポルシェの車検証と、車両の詳細(車種、色、走行距離、装備、傷の有無など)が、コンビニのファックスから送られてきました。その資料を、とかし屋(名義変更できない車を闇で売買する業者のこと)の井上さんにファックスして、早速に買取評価額を出してもらいます。
「ちょっと状態が悪くても250万円、問題なければ300万円で取りますよ」
佐藤さんの席に座って一連のことを把握しながら、何度も執拗に佐々木さんの携帯電話を鳴らし続けていた社長が、電話を切って言いました。
「女で取れるなら、それでいいな。もう田中と佐々木は放っておこう。小田も引き上げさせろ」
会社に戻るよう小田さんに連絡を入れると、ちょうど田中社長の自宅に到着したところのようで、夜逃げしているのが明らかな状況だそうです。
それからまもなく、連帯保証人の女性が、佐藤さんたちに連れられて来社されました。いきなりのことで、出かける準備ができなかったのでしょう。ノーメイクのスウェット姿でこられましたが、相当な美形であることは変わりません。今回は、車両を担保に金を貸し付け、田中社長の債務を弁済させる形なので、女性との間で新規契約同様の手続きが行われます。スウェットを着ているため、魅力が半減しているのか、この日の男性陣は鼻の下を伸ばすことなく、事務的に処理を進めていました。
男性社員とグラドルが乗った担保のポルシェはホテルへと消えていった―――
「その状態で電車に乗るの、嫌ですよね? これで仕事も終わりだし、僕も同じ方向だから、よかったら自宅まで送りますよ」
「本当ですか? 助かります!」
佐藤さんからの提案に、揉み手をして、うれしそうに応じる女の様子を目の当たりにして、言い知れぬ憎悪を抱いたことは言うまでもないでしょう。
「明日、全額決済しますから、預けているクルマを用意しておいてください」
数日後、ポルシェを担保に取られた連帯保証人の女性から、全額決済する旨の連絡が入りました。車担保のお客さんは上客とされるため、決済時には機械洗車をしてからお返しすることになっています。ところが担当の佐藤さんは、高級車だからと手洗い洗車を選択し、ガソリンまで満タンにして返却するサービスぶりを見せました。どこかうれしそうに決済の段取りをする佐藤さんの様子が、いちいち怪しく、気に入らなかったことを覚えています。
「こんにちは」
大きく胸元を開いた白のタンクトップに、淡いグリーンのシャツを羽織って来社された女性は、佐藤さんの姿を認めると友達に会ったような感じで小さく手を振りました。初回契約時と比べれば、2人の雰囲気から随分と関係が深まっているのは明らかで、ゲスな話ではありますが男女の関係さえ疑ってしまうほどです。
「ほかの保証先には弁護士を入れました。ここのことは内緒にしています」
「なんで内緒に?」
「いろいろ教えてくれて、良くしてくれたからですよ」
その数日後、出社するべく事務所前の道を歩いていると、前方からきた真っ赤なポルシェが対面にあるホテルの駐車場に入っていくところを見ました。女が運転する車の助手席には、あろうことか佐藤さんの姿があって、しばらく呆然とした次第です。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)