コラム
本当はヤバい朝ドラ『らんまん』

歴史エッセイストが朝ドラ『らんまん』主人公の“伝説的なクズ性”を暴く!

2023/07/29 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

『らんまん』で主人公の妻を演じる浜辺美波(C)サイゾーウーマン

 茶目っ気とサービス心にあふれ、周囲を喜ばせるようとする言動が多かったという牧野。

 そんな牧野による女性の籠絡は、幼年時代、祖母・浪子を相手にはじまったようです。

 亡くなった両親の代わりに、牧野を育てた浪子から溺愛された後は、いとこで、形だけの妻となった猶(なお)、次には14歳の若さで彼から見初められ、「妻」となった寿衛(すえ)……人生の多くの段階で、女たちから溺愛される宿命の牧野は、彼にすべてを捧げる女たちから守られつづけました。

 それゆえ、彼は「金もないのに豪華な生活をしてはいけない」とか「自分を好いてくれる女たちをボロ雑巾のように扱ってはいけない」とかいった世間一般の良識がまったく理解できなかったのかもしれません。いや、そういうことが理解できない天衣無縫な彼だからこそ、ある種の女たちは牧野富太郎という「悪の華」の蜜に毒され、離れられなくなってしまったのかもしれませんが……。

 周囲をまきこむほどの抗いがたい「性」の力に突き動かされた植物学者・牧野富太郎は、のちに「日本の植物学の父」と呼ばれることになり、「ムジナモ」のほかにも数々の新種植物の発見、そして50万点にも及ぶ植物標本、さらには膨大な観察記録を反映した『牧野日本植物図鑑』などの著作を残した巨人として、歴史に名を残しました。

 牧野富太郎に振り回された女たちの血と汗と涙は、彼の仕事を見る限り、大輪の花として開き、結実したともいえますが、その私生活を覗き見ると、牧野が伝説的なクズであったことはあきらかです。

 あまりに無茶苦茶であるがゆえ、ある意味、あっぱれともいわざるを得ませんが、そんな牧野のパワフルすぎる素顔を、次回から振り返っていきたいと思います。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2023/07/29 17:00
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