“ロックの女王”ティナ・ターナーが死去――享年83 、激動の人生を振り返る
さらに、80年代に入ると、アイクから受けたDVについて語り始め、「DV被害者だったことを公にした初の大物セレブ」として世間に大きな衝撃を与えた。86年に出版した自伝本『アイ、ティナ』は、93年にアンジェラ・バセット主演で映画化され、大きな話題に。2021年に米HBO局で放送されたドキュメンタリー番組『TIANA』では、「彼女がDV被害者だったと告白したことは、暴力を振るわれていると秘密にしてきた虐待被害者に勇気を与えた」と分析し、ネット上で賛同する声が続出。
18年に発売した自伝本『My Love Story』では46歳の時に出会った16歳年下の運命の男性、ドイツ人音楽プロデューサーのアーウィン・バックとのラブストーリーもつづり、2人の愛の絆は多くの人々の心を打った。
同書では闘病生活についても記しており、元凶は78年に診断された高血圧だったと明かしている。診断されたものの、そのままにしていたらどうなるかなどの説明は受けず、ティナは「血圧が高いのが普通」と思い生活。その結果、09年に脳梗塞を発症した。幸い軽いものだったがこの時、腎臓が35%しか機能していないと診断され薬を処方されるが、「気分が悪くなるから」とホメオパシー療法に変更し、結果的に腎臓病は悪化してしまった。
13年、アーウィンと再婚した3週間後に脳梗塞を再発。幸い軽度で回復したが、16年に今度は結腸直腸がんを発症。ポジティブな夫のおかげで取り乱すことはなかったが、腎臓もほとんど機能していないと告げられ、人工透析を開始した。この時、70代後半だったティナは「機械につながれてまで生きたくない」「逝く時が来たのだと思う」と透析を受けることを拒否し、アーウィンに「自分は健康だから、腎臓をひとつあげる」と言われた時も「まだ若いあなたの人生を台無しにしたくない」と最初は断ったが、懇願され、17年に彼から提供を受けた。
腎臓移植手術後、しばらくはつらい副作用に苦しんだが、20年には体調が良くなり『Happiness Becomes You』を執筆。「アーウィンが腎臓を一つくれたおかげでとても健康になり、人生を楽しめるようになった」と幸せをかみ締めていた。新型コロナウイルスがまん延していたため表に出ることはなかったが、晩年は痛みに苦しまず穏やかに過ごせたのではないかとみられている。
18歳で生んだ長男クレイグは18年に自殺しているが、同年受けたインタビューでティナはその息子について「今は(苦しみのない)快適な場所にいると思う」と穏やかな表情でコメント。自分の人生についても「壮絶だったけど、誰のせいだとも思わない。そういう人生だっただけで、私は乗り切っただけ。誰のことも責めないわ」と達観したように語っていた。
なお、彼女を苦しめたアイクは07年にコカインの過剰摂取で死去。アイクとの間に生まれた次男ロニーも、昨年62歳で、直腸がんの合併症で亡くなっている。