【女性誌レビュー】「婦人公論」2023年5月号

加藤茶の“若い妻”礼賛が、「婦人公論」のメッセージをひっくり返したワケ

2023/05/03 16:00
島本有紀子(ライター)
加藤茶の“若い妻”礼賛が、「婦人公論」のメッセージをひっくり返したワケ
「婦人公論」(中央公論新社)2023年5月号

 「婦人公論」5月号(中央公論新社)が発売中です。今回の特集は「豊かな暮らしは『上手に使い切る』から」。穴あき靴下をかわいく補修する「ダーニング」に、キャベツの芯やエノキの根本を使った「もったいないレシピ」、タンスに眠る着物をバッグなどにリメイクする方法など、たくさんの“使い切る”アイデアが紹介されています。

 これまで同誌をにぎわせてきた「断捨離(R)やましたひでこ」や「ミニマリスト」ブームがさらに新しい次元に入ったことを実感できる中身になっています。さっそく見ていきましょう!

<トピックス>
◎豊かな暮らしは「上手に使い切る」から
◎読者体験手記 どうしても捨てられません
◎加藤茶×井上順 売れない時代にジャズ喫茶で出会って60年

捨てるブームに疑問「生活空間をスッキリ整えたとして、それで幸せなのか」

 まず見ていくのは、特集の「豊かな暮らしは『上手に使い切る』から」。「今あなたが持っているものは、まだまだ活かせるし、再利用できる可能性が。家の中はお宝だらけ」と呼びかけ、 “とにかく今あるものを大事に使い切ろう精神”があふれた企画になっています。物価高騰が続く中、これまで同誌で多く取り上げられてきた「断捨離(R)やましたひでこ」や「ときめく片づけ」「ミニマリスト」など、“不要なものを捨ててスッキリ暮らす”程度では赤字になる時代が来たのでしょう。もはや、捨てるって贅沢なことだったのだなぁ……と思ってしまいます。

 そんな一抹の寂しさを感じながらも、紹介されているのは、穴あき靴下をかわいく補修する方法、野菜の切れ端を使っておいしい料理を作る方法、タンスに眠る着物をおしゃれにリメイクする方法など、前向きで環境にもやさしいアクションばかり。参考になります。


 中でも異彩を放っているのが、90歳になった作家・五木寛之氏のインタビュー「無理に手放さなくていい モノは記憶の依代(よりしろ)になる」です。「生活空間をスッキリ整えたとして、それで幸せなのか、と問いたい」――そう語る五木氏の“捨てないこと”へのこだわりは、尋常ならざるものがあり、このインタビュー時に着用しているジャケットは40年以上前のもの、ズボンは1970年代にあつらえたもの、時計は半世紀使っているものだそう。「1968年、パリで起きた五月革命のときに出合ったロンドンブーツ」も大切に所有しているといいます。

 五木氏は「モノを手放すのは、自分が過ごしてきた時代の記憶、歴史を忘れていくのと同じであるように思える」と語り、ウクライナ・ロシアの戦争や、五木氏の戦後体験にも話は広がっていきます。「僕自身、前述したように、終戦後『棄民』になりました。国から『棄てられた』経験をしたのです。『捨てる』という行為を突き詰めると、こういうところまでいってしまう」と言う五木氏。捨てるという行為から、戦争にまで思いをはせる。視野の広がり半端ねぇと驚きました。

婦人公論名物・溜め込む読者

 次に見ていくのは、読者体験手記のコーナー。今回の募集テーマは「どうしても捨てられません」です。捨てる・捨てないがテーマの号の「婦人公論」では、変わった物を溜め込む読者がたびたび登場しますが、それは今号でも健在。

 1通目の投稿者(71歳)は、幼い日に「納豆の袋」を収集していたと書いています。現在のようなトレーではなく、「経木に包まれた三角形のもの」で、それを押し入れに溜め込んでいたそう。「好きな食べ物の残り香に包まれたかったのかもしれない」とのことで、ぷ~んとした臭いまで想像できる味わい深い手記でした。

 2通目の投稿者(56歳)が捨てられない物は「ボディコン服」。バブル期とは体形も変化し、「トップスは首すら入らないし、スカートは片足を入れるのがやっとの状態」だそうですが、「ボディコンは、私の一番楽しかった時代の象徴」のため捨てられないのだといいます。派手なタイプではなく、「内向的なうえに暗い人間」だったという投稿者が、どれほどの決心でディスコに飛び込み、ボディコン服で武装し、どう変わったか――という歴史が語られ、五木氏が語っていた「モノは記憶の依代(よりしろ)になる」という言葉が、より染み入ってきました。