上野千鶴子が文春砲に反論――“結婚の面倒くささ”を考えさせられる「婦人公論」
最後に見ていくのは、ジェンダー研究のパイオニア的存在である社会学者・上野千鶴子の緊急寄稿「『文春砲』なるものへの反論 15時間の花嫁」です。著書『おひとりさまの老後』(文春文庫)などで知られ、かねてから結婚制度に異議を唱えていた上野氏ですが、2月22日発売の「週刊文春」で「おひとりさまの教祖 上野千鶴子が入籍していた」として、2021年に亡くなった歴史学者・色川大吉氏さんと結婚していたことを報じられました。
上野氏はこの報道に「他人のプライバシーを嗅ぎまわってそれをネタにする卑しい人々がいる」「不愉快でならない」とご立腹で、今回の緊急寄稿に至ったようです。上野氏は死期が迫っていた色川さんの介護をして看取ったこと、色川さんの死の直前に婚姻届を提出したことは認めたうえで、婚姻届提出の15時間後に色川さんが亡くなったことを明かし、「正味15時間の婚姻関係」だったとしています。
色川さんを在宅介護するうちに、他人では「死亡届を出すこともできない」「万一の時の入院や手術の同意書にサインすることもできない」などの「家族主義の日本の法律」の壁にぶつかったそうで、色川さんとの養子縁組か婚姻かを考え始めたとのこと。
養子縁組では年少者の上野さんが色川姓になる必要があるため、婚姻を選んで色川さんが上野姓になったと説明し、「その名前の死亡届を見るたびに、憮然とする。選択的夫婦別姓制度が導入されていれば、こんな思いをしなくてもよかっただろう」「日本の法律が家族主義でなければ、こんな思いをすることもなかった」と書いています。書かれていることだけを踏まえると、上野氏は色川さんの死亡届提出のためだけに婚姻届を出したということでしょうか。
実際には、上野氏が色川姓になっていたとしても、色川さんが亡くなった後に「復氏届」を提出すれば上野姓に戻れるそうですが、「当時は無知だった」とのこと。また財産相続には触れられていないので、気になる点はあるものの、“結婚制度・家族主義への異議”という主張は、「15時間の花嫁」を経ても一貫していました。
そもそも、上野氏の著書タイトルにある「おひとりさま」は独身のイメージが強いですが、『おひとりさまの老後』は「結婚してもしなくても、みんな最後はひとりになる」という一文から始まっていました。今回の寄稿記事で、おひとりさま=独身ではないことをあらためて認識するとともに、上野氏ほどの社会学者にも知られていないマイナーな制度「復氏届」の存在がわかり、勉強になりました。
とにかく結婚・離婚には、第三者の想像を絶する面倒くささが夫婦の数だけあるようだ……と思わされた今号でした。