【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

Netflixドラマ『ザ・クラウン』よりも非情な王室! 本当にあった「親類見殺し」の過去を紐解く

2023/03/11 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)
(写真/Getty Imagesより)

 「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 今回はイギリス王室の描き方をめぐり視聴者の間で物議を醸しているテレビドラマ『ザ・クラウン』(Netflix)の第5シーズンについて、堀江氏に聞きました。

堀江宏樹氏(以下、堀江) 前回から、「いろいろと問題作だった」との評が多いNetflixのオリジナルドラマ『ザ・クラウン』の第5シーズンについてお話しています。

――「親戚を見殺しにして、それによって王室の安定を試みる」という話が、第5シーズンには登場していたとのことですが?

堀江 そうですね。1994年、エリザベス女王とフィリップ殿下は、当時すでにソビエト連邦ではなくなったロシア連邦を訪問、1918年に革命勢力の手で惨殺された元・皇帝一家の追悼儀式に参加するという形で描かれていたと思います。ドラマでは過去の「回想」として、1917年当時の英国王・ジョージ5世が家族の意見によって、いとこにあたる前・ロシア皇帝ニコライ2世(ロマノフ朝第14代皇帝)とその家族を見捨てる非情の判断をするという形で描かれていました。

――睡眠中だったニコライ夫妻が、革命軍の兵士に叩き起こされ、処刑現場に連れて行かれる際、勘違いして「私のいとこのジョージ5世が軍艦をよこしてくれたのだ!」「これで助かった」とぬか喜びするシーンですよね。その後の銃殺シーンがやけにリアルで衝撃的でした……。


堀江 ジョージ5世とニコライ2世はいとこにあたり、愛称で呼びあう仲でした。また、ニコライの妻(前・ロシア皇后)のアレクサンドラも、実は親戚の女性で、面識があるのです。1917年初頭、ジョージ5世も前皇帝夫妻の亡命受け入れに賛成していました。しかし、同年3月~4月になってジョージ5世は態度を翻し、「ニッキー(ニコライ2世)一家を受け入れない」と言い出したのです。

――なにが国王を変心させてしまったのでしょうか?

堀江 保身でしょう。当時のイギリスは保守党と自由党の対立に加えて、左派勢力である「労働党」が強くなっており、自由党左派のロイド・ジョージ首相は王族・貴族たちにきわめて厳しい態度を取っていました。そういう世論に逆らって、ロシアから前皇帝夫妻とその子供たちを、親族のよしみでイギリスに迎え入れたりしたら、英国内から「反動的なイギリス王室なんて要らない!」という声が上がることを警戒してしまったようなのですね。しかし、その経緯がドラマで描かれた以上に、エグいのです。

 ロシアの革命政府とイギリス政府の間で、すでに前皇帝の受け入れが決定していたのに、心変わりした英国王は「ダメだ」の一点張りでした。ロイド・ジョージ首相ですら亡命については賛成していたのに。ロシアとイギリスの周囲が英国王をなだめたのですが、やはり「前皇帝は亡命させられない」との最終通告をロシア側に伝えることになりました。

 そういう動きがロシアとイギリスの間にあるという情報をつかんだレーニンは、「皇帝一家など生かしておいたら、今後、革命の妨げになる」といきりたち、その結果、前皇帝だけでなく一家全員が「これほど多くの遺体がこれほどひどく損傷された例を私は見たことがありません」といわれるような酷い殺され方をしたのです。これは遺骨調査を行ったコリヤコヴァ博士の言葉ですね。


――イギリス国王としての王冠を守るためでしょうが、言葉を失うような非情さですね……。

堀江 ロシアで革命が起きてしまったのは、やはり前皇帝に大きな問題があったからですが、その罪のほとんどを(前)皇后が被ることになった点は、さらなる問題といえるでしょうね。

 ドイツとイギリスの血を引くアレクサンドラ前皇后は、ドイツ生まれではありますが、諸事情あって6歳から12歳までイギリス王室で育てられた女性なのです。英王室とは血縁関係にありました。しかし、それでもジョージ5世は見捨てているのです。彼女は現代風にいうと“怪しい宗教”にのめりこんでいました。ラスプーチンという超能力者に依存していたのです。また、当時のイギリスはドイツと戦争中です。アレクサンドラには、ドイツのスパイという噂が根強くありました

――でも、さすがにそれは噂ですよね? 

堀江 はい。しかし、庶民の噂とかイメージに想像以上に王室が振り回されていることは興味深いですね。イギリス王家の名前も元来は、ザクセン=コーブルク=ゴータ家だったのですが、これではイメージが悪いということで、第一次世界大戦を契機に、現在のウィンザー家に改名しています。

エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人(1)