コラム
仁科友里「女のための有名人深読み週報」

有働由美子アナの「オバハン自虐」を許容していた大組織・NHKの“男尊女卑”体質

2022/08/25 21:00
仁科友里(ライター)

 有働アナのジェンダー観の危うさは、NHKという大組織を離れて、いよいよ明らかになりつつある。フリー転身後、報道番組『news zero』のメインキャスターに就任したが、日替わりで出演する女性アナウンサーが若いことから、発表会見で「若いアナ、キラキラした人と、置き屋の女将みたいな感じですが、女将なりに頑張ります」と自虐した。

 いつものサービス精神を発揮したのだろうが、公の場で、性的接待のオーガナイザーの意味も持つ“置き屋の女将”という言葉を使い、暗に「若い女性アナウンサー=男性に差し向ける存在」と捉えられかねない表現をしたことについては、女性論客からも「いかがなものか」という声が上がった。

 自身のラジオ番組『うどうのらじお』(ニッポン放送)で、北京五輪スノーボード男子の金メダリスト・平野歩夢選手に対して「久しぶりに女心がキュンキュン! としましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりましたけども」「素晴らしい演技、素晴らしい滑り以上に、いち日本に住むオバチャンの、ホルモン……って言うといやらしいですけど、気持ちまで若返らせていただきました」と発言し、物議を呼んだこともある。

 これは平野選手に対する明らかなセクハラであるとともに、「オバチャンは女性ホルモンが枯れている」という自虐――やはり女性の若さを重んじているからこその発言に聞こえるのだ。

 抜群の好感度のために大炎上はしないものの、有働アナのトークには「年齢と性」の要素が含まれていることが多い。そのため、炎上リスクが高かったり、誤解を持たれやすくなる。

 先ほどの「50歳を過ぎると、恋愛に興味もなくなるんですよ」という有働アナの発言も、彼女の偽らざる気持ちだと思われるし、「女は若いほうがいい」というオジサン思想の人には、「そうだ、いつまで若いつもりでいるんだ」と歓迎されるだろう。しかし、世の中には50歳を過ぎても恋愛が大好きな女性もいるわけで、そういう人は、有働アナの発言にモヤモヤするだろう。

 こういうリスクを回避するためには、主語をはっきりさせる必要があるのではないか。「私は恋愛に興味がありません、50歳を過ぎたからですかね」と言えば、それは有働アナの意見だとして受け止められるが、「50歳を過ぎると、恋愛に興味もなくなるんですよ」という言い方は、「25歳になったら、会社をやめろ」という過去になされた根拠のない決めつけと、さして変わらない気がする。

 有働アナは、『うどうのらじお』内で、森喜朗氏が女性蔑視発言の責任を取り、辞意を表明したことについて、「私も男社会に長く生きているので、アップデートできていない部分があるんで、すごく発言するのが怖いというか……」と話していたことがある。誰もが程度の差はあれ、男尊女卑社会に生きており、そこに適応しなければ生きていけなかったわけだから、そうした部分があるのは当たり前だろう。

 もしアップデートできる人とそうでない人の間に差があるとしたら、本人の気質(男性にかしづくのが好きな人もいる)に加え、傷の深さも関係してくるのではないか。男尊女卑社会に悩み、深く傷つき、それでもどうにかして適応しようと努力した人ほど、男尊女卑社会的な価値観を手離せないように思うのだ。有働アナの自虐は痛みの歴史。そう考えると、やっぱり彼女の自虐は笑えない。



仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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最終更新:2022/08/25 21:00
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