コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

60歳で会社を退職後、ボランティアで喜びを感じる――依頼する高齢者が「母の姿とも重なる」

2022/08/28 18:00
坂口鈴香(ライター)

 松野さんは、最近会社を退職した。再雇用制度を利用せずに、会社からはきっぱり離れた。初枝さんに何かあればすぐに行けるようにしておきたいという気持ちもあったが、初枝さんの様子を見ていて、これからの長い老後を自分はどう送るのか、会社から離れてゆっくり考えたいという思いも強くなったのだという。

 自由になった時間を、これまで取り組めなかった趣味の音楽や絵画に使うほか、地元の助け合いグループに入って、有償ボランティアもはじめた。

「少額ではありますが、ちゃんとお金をもらって、地域で困っている人の役に立っているという喜びを感じています。これは会社にいたころには味わえなかった新鮮な体験でした」

 依頼者の多くが、高齢者だという。庭の草むしりや剪定、電球の交換や家具の移動など、小さなことだが、自分ではできなくなった高齢者から感謝されて、逆に松野さんのほうが恐縮してしまうくらいだ。

「リタイアした自分でも、このグループでは最年少。『松野さんは若いから』とおだてられていますが、それもまんざらではないですね。私を指名して待ってくれている方もいます。作業している間の世間話が楽しみで、私たちを呼んでいるのかなと思うこともあります。母の姿とも重なる部分も多く、自分もいずれこうやって老いていくんだと実感します」

 松野さんはさらに介護ヘルパーの資格を取得することも考えはじめた。まだ60歳になったばかりだ。老いる自分を受け入れるための準備期間は、まだまだたっぷりある。準備しなくても老いは待ってくれないのだけれど。

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坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2022/08/28 18:00
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