コラム
パワースポット・スピリチュアルのまやかし

「○○するのは失礼」フレーズに要注意!? スピリチュアルの“勝手なルール”のまやかし

2022/08/07 18:00
上江洲規子(ライター)

――「こういうことをやってはいけない」「正しい方法はこれ」と掲げるスピリチュアルや霊能者は少なくないでしょうね。

上江洲 神の声が聞こえる、神の姿が見える、と言う人もいますよね。「今昔物語」巻第二十には、「愛宕護の山の聖人、野猪に謀られたる語」とのエピソードがあります。愛宕山に聖人がいて、日々祈りを捧げていたが、あるころからか夜になると普賢菩薩が見えるようになるが……という話です。

 聖人を尊敬する猟師は疑問に思い、その普賢菩薩の姿を確認することに。夜半過ぎ、本当に白い象に乗った神々しい菩薩が現れますが、猟師は矢をつがえ、射抜いてしまいます。驚き嘆く聖人に対し、猟師は「聖人に菩薩が見えるのは当然ですが、私のように経も読めぬ者に見えるのは変です。大方、狸の類いでしょう」と答えました。

 そうして、朝に血の跡を追ったところ、大きな野猪が倒れていたといいます。

――イノシシを神様だと思ってしまったのですか。

上江洲 聖人は無垢な人で、彼を敬う猟師がいたほどなので、高潔な人物だったのでしょう。しかし、「今昔物語」の著者は「此様の獣は、此く人を謀らむと為る也。然る程に、此く命を亡す益無き事也と語り伝へたるとや(意訳:獣は人を欺こうとするものだが、そんなふうに命を落とすのは益のないことだ)」と結び、彼の智恵のなさに苦言を呈しています。

 聖人の「常識なき信仰心」ゆえに、寺の小僧や猟師まで危険にさらした可能性もあるんですね。

――「常識なき信仰心」が、身内や関係者を危険にさらす……。昨今の宗教やスピリチュアルでのトラブルにもあてはまりそうです。要注意ですね。

上江洲 神の声が聞こえる、仏と話ができると主張する人々がいますが、しかしその声が本当の神仏か、あるいは野猪かを見極める方法はありません。

 猟師のように「私に仏が見えて良いものだろうか」と疑ってみるのは重要なことで、疑ってもみない人の「神仏の話し」を鵜呑みにするのは避けたほうが良いかもしれませんね。

■参考文献
岩波書店『今昔物語集 本朝部(中)』池上洵一編 2002年7月25日 第二刷
岩波書店『今昔物語集 本朝部(中)』池上洵一編 2002年7月25日 第二刷発行

上江洲規子(ライター)

歴史、特に古代史や神話のほか日本文化やリクルートなどの分野で執筆を手掛けるライター。古代史は博物館をめぐって発掘調査の研究成果からアプローチするだけでなく、「日本書紀」や「古事記」はもちろん、「風土記」「古語拾遺」「先代旧事本紀」などの史料も参考にしている。民俗学者・田中久夫氏の「御影史学研究会」にも参加し、日本の民俗も勉強中。

最終更新:2022/08/07 18:00
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