コラム
高橋ユキ【悪女の履歴書】
素手で病巣の臓物をグチャ……「心霊手術」で数億円稼いだ、“神さま”と呼ばれた女【豚の血・心霊手術詐欺事件】
2022/07/24 18:00
千鶴子は、昭和の時代にフィリピンで学んだ“心霊手術”とは名ばかりの手品の腕前と、巧みな話術で患者たちを欺き「心霊手術でどんな病気も治せる」と豪語していた。
実際に、肩こりに悩んでいる時に志摩子から血を抜いてもらったという近所の老人は言う。
「わしらは日笠さんのことを神さんと呼んでおりました」
40年近く、心霊手術という名の詐欺治療を続けてきた志摩子は、神ではなく人間で、第二次世界大戦が始まる前の39年、三重県某市の海岸沿いにある漁業の町に生まれた。戦争が終わったのは彼女が小学校1年生のとき。
食べ物のない時代だったが、漁業の街の住人が飢えることはなかった。ここでの暮らしは、志摩子の詐欺師としての出発点といえる。当時、とある商売が町で大流行したのだ。
「うちの父ちゃんと息子は“たんもんや”になって留守にしとるんだわ」
この町では、男たちは漁師の仕事や学校を放ってまで“たんもんや”に出ていった。“反物屋”が訛ったと思しきその言葉は、洋服や和服の生地のニセ反物を売り歩く“詐欺商法”を意味していた。反物の両端だけに本物の生地を織り込んだそのニセ反物を使い、客の前で反物の端だけを炙ってみせる。
「純毛かどうかは繊維を燃やしてみればわかるんです……独特の匂い、この焦げかた、正真正銘の純毛です」
と、このようにして、端の純毛だけ燃やして全てが純毛の反物であると客を騙し、仕入れ額の数十倍の高値で売りつけるというやり方だった。彼らは町に戻ると、金の指輪の大きさや、ロレックスの高級腕時計を自慢しあったりした。
――続きは7月25日公開です
■参考資料
「週刊大衆」(双葉社)1996年11月18日号
「週刊女性」(主婦と生活社)1997年1月21日号
最終更新:2024/01/16 14:28