コラム
パワースポットの裏側

「恋愛成就」「女人守護」のパワースポット神社に知られざる落とし穴! 願い事を叶えるお守りの本当の意味

2022/07/23 17:00
上江洲規子(かみえしゅう・のりこ)

CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

 遊女ではない女性たちの守護神も、女人の願い事を叶えてくれると人気だ。

 海女の歴史は古い。今から約二千年前、垂仁天皇の皇女である倭姫が、伊勢の国で海女が獲った鮑(アワビ)を召し上がられたとされるし、『魏志倭人伝』にも海女に関する記述がある。海女たちが身につけるお守りは、五芒星と縦四本横五本の格子で、通称を「セーマンドーマン」と呼ばれる。

 セーマンは安倍晴明、ドーマンは晴明のライバルで在野の陰陽師だった蘆屋道満を意味するとされるから、陰陽道を起源とするのかもしれない。このお守りは「女性の願い事に霊験あらたか」として人気だが、海女たちは本来もっと明確で、限定された願い事のために肌身に付けた。

 その願い事とは「トモカズキ除け」だ。トモカズキは「伴潜き」とも書くように、海女と一緒に潜水する海の魔物。海女が一人で海に潜っていると、手招きしたり、鮑などの海産物を差し出したりして、岩場の影に招き寄せようとする。

 つい手を伸ばしたり、近寄ったりすると、捕まえられて海面に浮上できなくなり、ついには命を落とすのだという。

 現代的に考えれば、潜水中に血中の酸素濃度が低下し、幻覚を見たのだろう。しかしトモカズキに命を奪われた海女は、自身もトモカズキになると信じられており、この難を避けるためのお守りとして、セーマンドーマンが伝わっているのだ。

 むろん、意味を拡大解釈して、「女性の命を守護してくれるお守り」と受け止めることもできる。しかし、恋愛成就を願ってセーマンドーマンを手にした人は、アテが外れた気分になるのではなかろうか。

 どんな神社にも歴史があり、そこで祈りを捧げてきた人たちがいる。ただ手を合わせる機会があるだけでもありがたいものではあるが、この神を敬ってきた人たちにも思いを馳せ、心を添わせてこその「神社の霊験」だろう。神社の歴史や意味を考えたうえでお参りすれば、霊験はさらにあらたかになるに違いない。

上江洲規子(かみえしゅう・のりこ)
歴史、特に古代史や神話のほか日本文化やリクルートなどの分野で執筆を手掛けるライター。古代史は博物館をめぐって発掘調査の研究成果からアプローチするだけでなく、「日本書紀」や「古事記」はもちろん、「風土記」「古語拾遺」「先代旧事本紀」などの史料も参考にしている。民俗学者・田中久夫氏の「御影史学研究会」にも参加し、日本の民俗も勉強中。

■参考文献
角川学芸出版『徒然草』今泉忠義訳注 平成20年10月20日改定九十四版発行
明石書店『中世の非人と遊女』網野義彦著 1994年6月25日 第一刷発行
明石書店『女人差別と近世賤民』石井良助著 1995年2月15日 第一刷発行

最終更新:2022/07/23 17:00
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