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Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』が“リアル”に感じるワケ――斎藤工の男性妊夫が象徴するものは何か

2022/07/03 10:00
成馬零一

 現代はポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)への配慮が求められる時代で、マイノリティに対する意識が高い作品ほど評価されるようになってきた。しかしその結果、映画やドラマは多様性や格差、貧困、フェミニズム、LGBTQ、SDGs、有害な男らしさといった現代的なテーマをどれだけ盛り込み、最適解を提示できるかという、商業上の“ゲーム”になっているように思う。そのことに対して、もっとも敏感な映像プラットフォームがNetflixだ。

 『ヒヤマケンタロウの妊娠』が作られた背景にも、ポリコレに対する意識の高さが商業的アピールにつながるという計算があったのだろう。正直、その戦略があからさますぎて、困惑する瞬間が本作には何度もある。

 しかし一方で、ポリコレが商業利用されている現状を、広告マンの桧山が姙娠を武器に再起を図ろうとする姿と重ねて描くことで、マイノリティをめぐる言説がゲームとして消費されている状況を、作り手自身が自己批判しているようにも感じた。

 さて、最終話に印象的な場面がある。無事出産した桧山が育休を取る際に、“子どもができてキャリアを中断することは下方修正ではない。人間的にスキルアップし、この経験が反映される日が来る”といったことを、女性社員に向かって高揚気味に語るのだが、彼女たちに「それ、カッコつけて言うほどのことじゃないよ?」「私ら普通にそうだから」「ヒロイックになってる時点で、まだまだですね」と言われ、笑われるのだ。

 このやりとりは、桧山が直面したことは特殊な出来事ではなく、「女性にとっては普通のことなのだ」と、視聴者に対して釘を刺しているように感じた。

 ヒヤマケンタロウを英雄にしてはいけない。なぜなら彼の背後には、今も出産・育児をめぐる問題で悩んでいる多くの女性がいるのだ――おそらくそれこそが、本作が一番伝えたかったことなのだろう。
(成馬零一)

最終更新:2022/07/03 10:00
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